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第65話 1536年 6歳 助けた人の正体
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出航して、三十分ほど経った頃だった。
前方で――
小型の海賊船三隻が、一隻の舟を襲っている。
襲われている舟の甲板には、男が一人。
必死に、矢を海賊船へ射かけていた。
その足元には、
すでに息絶えた仲間の死体が転がっている。
俺は即座に指示を出した。
俺
「襲われている舟を助けろ」
三十名の兵士に、火矢を使わせる。
黒田リンと黒崎仁には、
半弓でのピンポイント射殺を命じた。
仁とリンは、迷いがない。
甲板に姿を現した海賊を、次々と射抜いていく。
同時に、兵士たちの火矢が海賊船へ突き刺さった。
三隻の海賊船は、
やがて炎に包まれていく。
小型船を降ろし、
生き残った男を救助した。
縄梯子を使って舟に上がってきた男は――
身長百九十センチほど。
爽やかで、陽気そうな男前だ。
二本差し。
だが、ちょんまげは結っていない。
……浪人だろう。
刀と懐刀を預かり、武装解除させる。
男は、きちんと礼をして言った。
「この度は助けて頂き、ありがとうございました。
お礼に、何を差し上げたらよろしいでしょうか?」
普通に聞けば、地方訛り程度の発音。
だが――
俺には分かる。
それは、
あの国の人間特有の癖だった。
俺
「とりあえず、部屋に入って
温かい物でも飲んでください」
船室へ案内する。
その際、
水斗と島田に目で合図を送った。
安田は危ない。
外だ。
安田も俺の表情を読み取り、
何も言わずに従った。
船室の前には、警護の兵士を配置する。
俺
「どうぞ、お座りください」
男は、
この場の空気が変わったことにすぐ気付いた。
だが、表情は変えない。
相変わらず、陽気な顔だ。
俺
「――お前、倭冦の親玉だろ」
中国語で告げた。
転生前の俺は、防衛大学校卒業。
第二言語は中国語だ。
海上自衛隊では中国語を使う部署におり、
北京語と広東語は問題なく話せる。
英検一級で英語も得意だが、
ラテン語は単語千個で挫折した。
男の目が、見開かれる。
……ザマァ。
こんな知恵の回りそうな男が、
下っ端なわけがない。
カマをかけた。
――大正解だ。
俺
「まず、名前を言え」(中国語)
男
「李牧だ。
なぜ中国語が喋れる。
なぜ俺が倭冦の親分だと分かった?」(中国語)
俺
「李牧とは、趙の将軍の名だろ。
本名か?」(中国語)
男
「……なぜそこまで知っている。
何者なんだ」(中国語)
俺
「俺は、お前の命を救った者だ。
今さら取る気はない」
「――部下は何人いる?」(中国語)
少し、ほっとした表情を浮かべる李牧。
李牧
「日本に六百。
中国に八百だ」(中国語)
……大海賊。
超大物だ。
俺
「なぜ、日本の海賊なんかに
襲われていた?」(中国語)
李牧
「部下に騙され、あの場所に誘導された。
そいつは、さっき始末した」
「ここまで聞くということは、
俺に何をさせたい?」(中国語)
察しが早い。
出来る男だ。
俺
「――技術者を連れてこい」(中国語)
明国の技術は、日本より少なくとも五十年は先を行っている。
俺はその技術が欲しい。
ここから、条件を一気に叩きつける。
鉄鉱石からの製鉄。
耐火レンガと高炉。
嘉靖通宝の鋳造。
蚕三百匹と絹の技術。
機織り機。
印刷と製紙。
火薬と火砲。
薬草と医師。
治水と灌漑。
陶器の量産。
最後に通訳。
さらに、
ニンニク、トウガラシ、サツマイモ、
ピーマン類、玉ねぎの苗と種。
報酬も明確に告げる。
技術者一人につき、
銀年四斤。
李牧には、
一人あたり年百匁。
日本人技術者が育ったと俺が認めたら、
銀四十斤。
李牧にも八斤。
達成報酬として、
蝦夷地の商品五千貫分。
出来なければ、
他の倭冦に回す。
俺
「どうだ、李牧。
やるか?」(中国語)
李牧
「是非、やらせてくれ」
「銭の密造と武器製造は、
俺たちにとって魅力的だ」
「お前は――
長尾家の御曹司、龍義だろ」(中国語)
……流石だ。
俺
「王直を知っているか」(中国語)
李牧
「小物だ。
奴がどうした」(中国語)
俺
「王直は倭冦で成功する。
南蛮を日本に引き入れる」(中国語)
李牧
「分かった。
帰ったら殺しておく」(中国語)
鉄砲伝来は1543年。
今は1536年。
まだ、南蛮は“本の中”だけの存在だ。
俺
「どこで降ろす?」
日本語で聞く。
李牧
「若様。
博多港まで、お願い申し上げます」
進路を変更し、博多へ向かう。
……出来る男だ。
互いに、互いを観察している。
長い沈黙の後、俺は聞いた。
俺
「李牧は、将来どうなりたい?」
李牧
「皇帝にはなれない。
だが、島の王にはなりたい」
俺
「なら、呂宋の王になれ」
「金で王女と結婚し、
王を殺せ」
「武器は俺が出す。
お前の技術者が作る武器だ」
李牧は、興奮を隠さなかった。
李牧
「本当に、応援してくれるか?」
俺
「約束する。
お前を王として、幕府に認めさせる」
水の入った椀で、盃を交わす。
手付け金として、千貫を渡した。
黙って頭を下げる李牧。
博多港で彼を降ろし、
俺たちは対馬へ向かった。
水斗
「若様が中国人を使うとは……」
安田
「水斗よ、若様に任せておけ。
若様に狂いはない」
「それより、
あの長弓使いの男女……
随分と仲が良いな」
……黒田リンと黒崎仁。
兄の黒崎弦も黒田リンに惚れている。
安田はそういう所を見るのは抜け目がない
前方で――
小型の海賊船三隻が、一隻の舟を襲っている。
襲われている舟の甲板には、男が一人。
必死に、矢を海賊船へ射かけていた。
その足元には、
すでに息絶えた仲間の死体が転がっている。
俺は即座に指示を出した。
俺
「襲われている舟を助けろ」
三十名の兵士に、火矢を使わせる。
黒田リンと黒崎仁には、
半弓でのピンポイント射殺を命じた。
仁とリンは、迷いがない。
甲板に姿を現した海賊を、次々と射抜いていく。
同時に、兵士たちの火矢が海賊船へ突き刺さった。
三隻の海賊船は、
やがて炎に包まれていく。
小型船を降ろし、
生き残った男を救助した。
縄梯子を使って舟に上がってきた男は――
身長百九十センチほど。
爽やかで、陽気そうな男前だ。
二本差し。
だが、ちょんまげは結っていない。
……浪人だろう。
刀と懐刀を預かり、武装解除させる。
男は、きちんと礼をして言った。
「この度は助けて頂き、ありがとうございました。
お礼に、何を差し上げたらよろしいでしょうか?」
普通に聞けば、地方訛り程度の発音。
だが――
俺には分かる。
それは、
あの国の人間特有の癖だった。
俺
「とりあえず、部屋に入って
温かい物でも飲んでください」
船室へ案内する。
その際、
水斗と島田に目で合図を送った。
安田は危ない。
外だ。
安田も俺の表情を読み取り、
何も言わずに従った。
船室の前には、警護の兵士を配置する。
俺
「どうぞ、お座りください」
男は、
この場の空気が変わったことにすぐ気付いた。
だが、表情は変えない。
相変わらず、陽気な顔だ。
俺
「――お前、倭冦の親玉だろ」
中国語で告げた。
転生前の俺は、防衛大学校卒業。
第二言語は中国語だ。
海上自衛隊では中国語を使う部署におり、
北京語と広東語は問題なく話せる。
英検一級で英語も得意だが、
ラテン語は単語千個で挫折した。
男の目が、見開かれる。
……ザマァ。
こんな知恵の回りそうな男が、
下っ端なわけがない。
カマをかけた。
――大正解だ。
俺
「まず、名前を言え」(中国語)
男
「李牧だ。
なぜ中国語が喋れる。
なぜ俺が倭冦の親分だと分かった?」(中国語)
俺
「李牧とは、趙の将軍の名だろ。
本名か?」(中国語)
男
「……なぜそこまで知っている。
何者なんだ」(中国語)
俺
「俺は、お前の命を救った者だ。
今さら取る気はない」
「――部下は何人いる?」(中国語)
少し、ほっとした表情を浮かべる李牧。
李牧
「日本に六百。
中国に八百だ」(中国語)
……大海賊。
超大物だ。
俺
「なぜ、日本の海賊なんかに
襲われていた?」(中国語)
李牧
「部下に騙され、あの場所に誘導された。
そいつは、さっき始末した」
「ここまで聞くということは、
俺に何をさせたい?」(中国語)
察しが早い。
出来る男だ。
俺
「――技術者を連れてこい」(中国語)
明国の技術は、日本より少なくとも五十年は先を行っている。
俺はその技術が欲しい。
ここから、条件を一気に叩きつける。
鉄鉱石からの製鉄。
耐火レンガと高炉。
嘉靖通宝の鋳造。
蚕三百匹と絹の技術。
機織り機。
印刷と製紙。
火薬と火砲。
薬草と医師。
治水と灌漑。
陶器の量産。
最後に通訳。
さらに、
ニンニク、トウガラシ、サツマイモ、
ピーマン類、玉ねぎの苗と種。
報酬も明確に告げる。
技術者一人につき、
銀年四斤。
李牧には、
一人あたり年百匁。
日本人技術者が育ったと俺が認めたら、
銀四十斤。
李牧にも八斤。
達成報酬として、
蝦夷地の商品五千貫分。
出来なければ、
他の倭冦に回す。
俺
「どうだ、李牧。
やるか?」(中国語)
李牧
「是非、やらせてくれ」
「銭の密造と武器製造は、
俺たちにとって魅力的だ」
「お前は――
長尾家の御曹司、龍義だろ」(中国語)
……流石だ。
俺
「王直を知っているか」(中国語)
李牧
「小物だ。
奴がどうした」(中国語)
俺
「王直は倭冦で成功する。
南蛮を日本に引き入れる」(中国語)
李牧
「分かった。
帰ったら殺しておく」(中国語)
鉄砲伝来は1543年。
今は1536年。
まだ、南蛮は“本の中”だけの存在だ。
俺
「どこで降ろす?」
日本語で聞く。
李牧
「若様。
博多港まで、お願い申し上げます」
進路を変更し、博多へ向かう。
……出来る男だ。
互いに、互いを観察している。
長い沈黙の後、俺は聞いた。
俺
「李牧は、将来どうなりたい?」
李牧
「皇帝にはなれない。
だが、島の王にはなりたい」
俺
「なら、呂宋の王になれ」
「金で王女と結婚し、
王を殺せ」
「武器は俺が出す。
お前の技術者が作る武器だ」
李牧は、興奮を隠さなかった。
李牧
「本当に、応援してくれるか?」
俺
「約束する。
お前を王として、幕府に認めさせる」
水の入った椀で、盃を交わす。
手付け金として、千貫を渡した。
黙って頭を下げる李牧。
博多港で彼を降ろし、
俺たちは対馬へ向かった。
水斗
「若様が中国人を使うとは……」
安田
「水斗よ、若様に任せておけ。
若様に狂いはない」
「それより、
あの長弓使いの男女……
随分と仲が良いな」
……黒田リンと黒崎仁。
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