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鶯音を入る
第六十一夜
しおりを挟む「難しい、でしょうけど…………! それを考えて、工夫して、どうにかするのがその人達の仕事でしょう? サイズごとに生産数を調整するとか、出来る事はいっぱいある筈です。金儲けのためだけにする仕事は、仕事とは言いません!!」
力を込めすぎて震えそうになる手をもう一方の手で押さえたが、感情までは堰き止められなかった。
辺りには、久しく聞いていなかった自分の声が響く。
常ならぬ声。怒り任せの絶叫。甲高く、感情的で、醜い、実に醜い女の声。
――――ああ、嫌い。嫌いなんてものではない。厭わしい。『良い子』の行いから少しでも外れた行動をすると決まって私を叱った母と、同じ抑揚。同じ声。
(自分の耳に聞こえる声は、本当の声じゃないって言うけど…………。私にとっては、自分に聞こえる声が私の声だよ)
「…………翠は、普通じゃない人にも優しいね」
その場に反響した声が消えるかどうかというタイミングで、彼女の声が尾を引く私のみっともないヒステリックな叫びの残響を消してくれた。
――――ああ、そうだ。
今の私には、私の嫌いな私の声を消してくれる人がいる。
今の私は、私の嫌いな私の声より、どんな時も落ち着かせてくれる彼女の声を聞いている時間の方が長い。
だから、大丈夫。
「私が優しいんじゃなくて、普通の人が普通じゃない人に厳しすぎて、冷たすぎるだけですよ」
お詣りに行った帰りにいただく一杯の甘酒のごとくほっとする声が浸透し、固く張り詰めて強張っていた心が解けていった。
「もしそうでも、翠が優しくない事にはならないよ」
柄を持つ手が緩むのを狙っていたのだろう。彼女の手がさりげなく日傘を奪って行った。
どうしてこの人は、私がずっと欲しくて、でも誰にも貰えなかった言葉をくれるんだろう。
彼女といると、これまでとまるきり別の世界を生きている感覚になる。
まるで私が良い子で、毎日がクリスマスで、サンタクロースからプレゼントを貰えているみたいだ。
サンタクロースとは、言うまでもなく彼女の事で。
(…………でも、嫌だな。貰ってばっかりなのも嫌だし、良い子にプレゼントあげてるサンタさんだって、良い人だよね。……なのに、大人だからってだけで、何にも貰えないのはおかしくない? サンタさんだって、プレゼント貰いたいよね。あげるの好きって人もいると思うけど、それとは別でしょ)
「……全身双子コーデ、もっとしたくなっちゃった。外国のブランドなら、翠とアタシのサイズあるかな?」
話す毎に音符が生成されているのではないかと思う程、彼女の声は明るく弾んでいた。
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