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鶯音を入る
第六十二夜
しおりを挟む「外国のブランド探す事自体は凄く良いと思います。ただ身体に合ってる服じゃなくて、似合って好きな服……って風に条件上乗せしても、探したら簡単に見つかりそう…………なんですけど。なんかそれ、逃げてる感じして嫌じゃないですか?」
ぎゅっと握り締めた拳は細かく震えている。
今、学生の頃に戻ったら、握力測定で見た事のない数字を叩き出せるのではなかろうか。
「逃げてる?」
目線のみで窺った彼女は、普段と何ら変わらない様子で私の目をひたと見据えていた。
「そうです。…………前、結婚の話になった時に『いざとなったら、海外まで逃げちゃえば良い』的なニュアンスの事言ったの、覚えてます? ……あ。紅さんじゃなくて、私がです」
「うろ覚えだけど。海外までは、翠のお父さんとお母さんも、追って来られない……だっけ?」
「完璧に記憶してくれてて、ありがとうございます。――――それです。あの時は、心から『こんな国見限って、私達がもっと自由に生きられる国に行くのが一番良い』と思ってたんですけど、今はちょっと考え変わってて」
「うん」
最近わかってきた。
彼女がいつもの一文字相槌でなくなる時は、私の話にいつも以上に真剣に耳を傾けてくれているという事が。
「……勿論、現時点で国外に出るのが一番、私達にとって楽な解決方法なのは変わらないと思ってます。でも、考えれば考えるほど、なんで私達がわざわざ出て行かなきゃならないんだ、ってムカついてきちゃって。どう考えても、おかしいのは私達じゃなくて、時代遅れの制度の方なのに。……『同性婚が認められてるから』ってだけで選ばれる国にも申し訳ないですし、ここ以上にインフラがちゃんとしてる国もないでしょうし。色々天秤に掛けた時に、『捨てるもの、多すぎないかな』って思っちゃったんですよね……」
「翠の言いたい事、わかるかも。間違ってないのに、アタシ達が変わらないといけないのも、出てかなきゃいけないのも、おかしいよね」
――――『自分は人間ではないから』という、ただそれだけの理由で様々な場面で遠慮を見せていた彼女が、ここに来てようやく自身も同等の権利を持っている事を自覚してくれたのが嬉しくて、やるせなさと苛立ちで握り込まれた拳がガッツポーズに変わる。
「ええ、そうなんですよ。それなんですよ! ……でも、紅さんが『翠と今すぐ結婚したい』、『法改正まで待てない!』って思ってくれてるなら、私はどこにだって行きます。…………いえ。女二人が一番幸せに安全に暮らせる場所を、必ず見つけ出してみせます。これは私達二人の問題で、今まで私は紅さんに借りいっぱい作っちゃってるんで、その分私が主体になって動きます。もう決めました。『何もするな』なんて口が裂けても言いません。紅さんの気持ちを踏み躙るような事を言いたくもないですし。でも、今度は私が紅さんの居場所を見つける番です。エアコンなくて困ってる私に、紅さんが代わりの居場所提供してくれた…………してくれてる恩、返させてください。もしかしたら、エアコン探しより時間掛かっちゃうかもしれませんけど」
――――きっと、これはこんな、朝っぱらから、道を歩きながらする話ではない。
(……プロポーズって…………こんなに回りくどくなる事あるんだ……)
日差しは完全に遮断されていると言って良い状態にもかかわらず、顔全体がアスファルトが照り返す熱を片っ端から吸収して回っているようだった。
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