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鶯音を入る
第七十一夜
しおりを挟む「翠?」
鏡に映る姿に馬鹿みたいに見惚れる私の視界に、彼女本人が割って入った。
矢張り、本人に勝るものはない。
「理由まで完璧じゃないですか。…………気が早いかもしれませんけど、これ、買っちゃいません? 私にも手が届く価格帯だったら、有り難いんですけど」
唐傘のピアスを棚に戻し、孔雀のピアスを持った。彼女の孔雀の隣にいた孔雀だ。
私の孔雀は私の手の中にありながら、それなりの期間、肩を並べていたかもしれない隣の孔雀を恋しそうに見つめている。
「大丈夫。千円しない」
「安っ! え、それ……逆に大丈夫ですか? 紅さん、いつもは桁が二つ三つ…………もしかしたら、それ以上するやつ、着けてるんじゃないです……?」
「………………翠は、値段と価値、一緒のヒト?」
「値段と価値…………は、いや……そんな事はないんじゃないですか……ね? ……例えば、元カレにプレゼントされたブランド物のマフラーと、靴擦れした時に紅さんがくれた絆創膏一枚。マフラーは……えっと……確か十万近くしましたけど、考えるまでもないですよね。紅さんが私の痛みを和らげるために差し出してくれた絆創膏の方が、ずっとずっと価値のある贈り物に決まってます。マフラー、私の服の色味に合ってなかったですし、入った事もないブランドでしたし。一回お風呂入ったら、剥がれる絆創膏だったとか、関係ないでしょう。真心の問題です。だから…………値段と価値は一見同じですけど、全然そんな事ありません」
「アタシもそう。だから、このピアス買ったら、お会計は二千円位になる。こないだ買った駅弁より、安い。……けど、翠とオソロで着けたら……アタシには、二千万以上のピアスになる」
「紅さん…………。『二千万』って、完全に語感で選びませんでした?」
真剣な話に水を差すようで悪いが、どうしても聞きたくて、こそっと尋ねた。
「バレちゃった。…………ホントはそれ以上の価値、あると思う」
すると、彼女が微笑んだ。縦幅がぐっと縮まっても、瞳の煌めきは隠せない。
薄暗いバーの照明より眩しい瞳。
私を見つめる瞳の中で、最も強く優しい瞳。
孔雀の羽の模様なんて、偽物の宝石なんて、及びもつかない。
「良かった。……それじゃ、これ買って来るんで待っててください。ピアッサー買うためだけに、朝から付き合ってくれたお礼です」
彼女の手から孔雀をサッと取り上げ、足早にレジへ向かう。
「待たない。アタシもこれ買う」
追いかけてくる足音にスピードを緩めた直後、背後から宣言された。
――――振り向くと、彼女の手には計四本の唐傘が。
「そっちも買うんですか?」
「翠が見つけてくれたから、買わない理由、ないでしょ」
「……値段、見てないんですけど」
「大丈夫。それもオソロ」
レジの人は私達のやりとりを通して聞いていたようで、会計時に無料の簡易ラッピングを施してくれた。
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