203 / 226
鶯音を入る
第七十二夜
しおりを挟む「…………レジの店員さん、私達の事、どんな関係だと思ったんでしょうね」
手に提げた袋を透かして見ると、綺麗にラッピング済みの二つのピアスが少し距離を空けて並んでいた。
丁度、出会ってすぐの頃の私達のように。
(良い店員さんだったな。空いてるから……もあるだろうけど、私なら、空いててもこんなに綺麗にラッピングしないし。……というか、出来ないか。こんなに器用じゃなかった、元々)
私の持ってきた鞄はそう大きくはないが、ラッピング済みと言っても、ピアスが入らない程良いオンナちっくな鞄でもない。
片方は彼女にあげるため――――というのも理由の一つではあったが、お揃いの物を購入してふわふわした気分を出来るだけ長く保っておきたくて、初めて入った店の名前がプリントされている袋を、鞄とは別に提げているという訳だ。
(すぐ着けられる気でいたけど、穴が定着するまで待たないといけないんだった。……一ヶ月くらいだっけ? 長いなあ。でも、紅さんといたら、あっという間かな)
目的を果たした私達は、行きと同じように日傘を差し、行きと同じ道を選んで歩いていた。
他にもいくつかルートはあるが、私達の選んだのは、このクソ暑いにもかかわらず、一番遠回りのルートだ。
日傘でガードしているだけでなく、塩分タブレットも持っているし、途中に自販機やコンビニ、ドラッグストア等もあり、いつでも水分補給が可能で、熱中症対策は万全と言いたい所だが、エアコンなしの生活に慣れず本気で死を覚悟した弱っちい私が、好きな人と出歩く時間を伸ばしたいがために、よりによって一年で最も暑い時期の、最も暑くなる時間帯に差し掛かっている今この時にフラフラしているというのが自分でもおかしくて、でも、もしかしたら人生で一番可愛いのかもしれないと思う。
少なくとも、今の私の想いを全て聞き届けた彼女が、最初に漏らす感想が『可愛い』というのは堅いだろう。
「仲良い友達、とかじゃない? オトコとオンナは、並んでるだけで付き合ってると思われるけど、オトコ同士、オンナ同士はそうじゃない。……ホント、変なの」
彼女も私を真似て、同じデザインで同じサイズの全く同じ袋を翳した。
(…………これは、うっかり触れたら、私の方が傷付くやつだな。多分、絶対、必ず)
呟く声は低く、なんとなく重かった。
「やっぱりそうですかね? ……ピアスお揃いで持つ位、友達でも普通にしますよね……。好みが合う人同士なら、全然良くある事かも」
「元気出して。他人からどう見えてても、翠はアタシの大事な人だよ」
それまでより近くに包容力のある声が聞こえ、抱き寄せられた事にワンテンポか、或いはツーテンポ程遅れて気付いた。
(肩…………!? 手も繋いだ事ないのに、肩!? …………いや、肩ぐらい組むか。友達でも普通に。友達ってより、何かのスポーツのチームメイトのイメージかな。友情とか、団結とか)
肩を抱かれた次の瞬間に、自転車が私を追い越した。
抱き寄せられずとも掠りもしなかっただろうが、前髪をさらった風が去っても、心臓の音は鳴り止まなかった。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
小さくなって寝ている先輩にキスをしようとしたら、バレて逆にキスをされてしまった話
穂鈴 えい
恋愛
ある日の放課後、部室に入ったわたしは、普段しっかりとした先輩が無防備な姿で眠っているのに気がついた。ひっそりと片思いを抱いている先輩にキスがしたくて縮小薬を飲んで100分の1サイズで近づくのだが、途中で気づかれてしまったわたしは、逆に先輩に弄ばれてしまい……。
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる