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鶯音を入る
第八十夜
しおりを挟む「今夜にでも、行ってみる? あのバー。……歩きで」
独りで歩くのが当たり前だった道を誰かと――――それも、女性と寄り添って歩いているなんて、半年やそこら位前の私に会いに行って教えてあげたら、冗談だろうと一蹴されるに違いない。
「良いですね。行けてなかった分のお金落としたいですし……紅さんとも、手繋いで歩けますし?」
「ん。そうしよ」
「………………まだまだ先だなあ」
一つ先の曲がり角を過ぎ、口からこぼれた言葉に自分でも目を見張る。
家は近い。バーも近い。半居候状態になっている紅さんの家も、まあ近い。
確かに私の思っている事ではあったが、心の中に留めておくべき事で、彼女に聞かせるつもりのない事だったから。
「エアコン?」
「違いますよ。今の流れで、なんでエアコンが来ちゃうんですか! ……いや、エアコン届くのもまだまだ先ですから、完全に間違ってる訳ではないんですけど!」
勢い良く反論したら、鞄の中でピアッサーの入った袋がゴトリと移動した。
彼女が、私達の関係の始まりたるエアコンに見立てたそれは、私が今までの私を脱ぎ捨てる第一歩を踏み出すために必要不可欠なアイテムで――――。
(もし私が、私達の物語を一本のPVにするなら…………絶対に映しておかないといけないものでいっぱいだな)
「お揃い?」
「そうです。私の直近の目標は、『紅さんとお揃いのピアスを着けて、街を練り歩く事』ですから! ……このピアスも、紅さんが買ってくれた方も、早く着けたいなあ……」
「良いね。なんでもない日でも、アタシ達にはお祭り」
傘を持っていない方の手に提げた袋を掲げ、彼女はふっと目を細めた。
「……私、紅さんといる日は、毎日特別だと思ってますよ。最近はずっとお祭りです。でも、八月って、そんな感じですよね。この前はあそこでお祭りがあって、次はそっちで、またその次は隣町……って感じで。わんこそばみたい」
「…………なら、家なんて…………帰らなくて良いのに。……ずっと、アタシのトコ居れば良い」
もうすぐ自宅が見えて来ようかという所で、彼女が小さく呟いた。
「そういう訳にいきません。家賃も勿体無いですし、冷蔵庫や冷凍庫だって空じゃないんです。数日に一回は様子見に行かないと。…………あ、特売の卵がそろそろ賞味期限なんで、帰り寄って良いですか? 私ん家、すぐそこですし」
冗談と捨て置くには重く、かといって本気にするにはあっさりしすぎている台詞に動転した私が選んだのは、帰り道を少しだけ延長する事だった。
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