222 / 226
駒繋
第九夜
しおりを挟む――――彼女と私が好きな、箱入りの高級素麺を贈ってくれたのは、同じマンションに住む同性の友達だった。
最近、長年友人として親交を持っていたハイスペックイケメン幼馴染と晴れて恋人同士になった彼女は、その男を連れ込む計画を立てていたらしいのだが、前日だか当日になって、給湯器が故障してしまったという。
実を言うと、私は、何から何までフィクションの世界の主人公のような人生を送っている彼女が、少し羨ましくもあった。
だが、ライクフィクション人生度で言えば、私だって負けていないし、パートナーである彼女だって、紗世――たかが一回の入浴のお礼に、大量の素麺を贈ってきた律儀な友達の名前だ――の恋人であるハイスペックイケメン幼馴染――『鏑木くん』とかいう名前だった筈だ。紗世がチャットの文面で連呼するから、自然と覚えてしまった。それにしても、苗字まで格好良いなんて、二人してフィクションを生きすぎではないだろうか――に負けない位溺愛してくれているので、羨む事もないと気付いてからは、随分と楽になったものだ。
(あの後連絡ないけど、元々そこまで頻繁に連絡取り合ってたわけじゃないしなあ。紗世の事だから、上手くやってるでしょ)
勿論、そんなイベントを控えていなくても、給湯器が壊れたのであれば、私はお風呂を貸していたし、その程度の事で見返りを求めようとも思っていなかった。
(『対価はお素麺で』って冗談、まさか真に受けるなんて…………。遠慮したのに、『私は麺を茹でるのも面倒なんだから、翠が貰ってくれないと困るよ! ……私はもう一生、料理しなくて済むかもしれないけど……♡♡』とか言って、置いて行かれたっけ。勝手に人ん家のキッチンまで上がって、どさくさに紛れて惚気るだけ惚気て帰って行くとか、本当に自由すぎる。…………あんな女、男からしたら可愛くて仕方ないだろうなあ。私から見ても可愛いし。私も、あんな風だったら、もっと早くに幸せになれてたかな。……でも、幸せになっちゃってたら、紅さんには出会えてなかったから、私は可愛い女じゃなくて良かったんだろうな。こんなのでも、紅さんにとっては、可愛い女みたいだし)
「なら、丁度良いね。お素麺代、お酒とおつまみに回せる」
常温保存の食品ストックを前にした彼女は、横顔で笑った。
期限を確認する傍ら、整理を並行してくれているようだ。
「はい、そういう事です。お素麺代が浮いた分のお金で、私はピアッサーとピアスが買えたのかも。……ちょっと嵩張りますけど、このお素麺、全部紅さん家持って帰りましょうか」
彼女が常備しているエコバッグに数年後まで味の保証がなされているオイルサーディン缶を数個入れ、素麺のみっしり詰まった箱を軽く持ち上げた。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
小さくなって寝ている先輩にキスをしようとしたら、バレて逆にキスをされてしまった話
穂鈴 えい
恋愛
ある日の放課後、部室に入ったわたしは、普段しっかりとした先輩が無防備な姿で眠っているのに気がついた。ひっそりと片思いを抱いている先輩にキスがしたくて縮小薬を飲んで100分の1サイズで近づくのだが、途中で気づかれてしまったわたしは、逆に先輩に弄ばれてしまい……。
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる