10 / 226
短夜
第九夜
しおりを挟む「……ホントに来てくれるんだよね?」
それから、仕事の事や過去の恋愛について語り、そろそろ移動しようという段になると、彼女は念を押してきた。
「まあ予定もないですし、付き合ってあげますよ」
――――我ながら数十分足らずでよくもこんなに生意気な口が聞けるようになるものだと思うが、その方が彼女も気楽そうだ。特に改める必要はないだろう。
「どっちの意味?」
ノータイムで聞き返す彼女は、流石の抜け目のなさといったところか。相当の数の修羅場を潜り抜けてきていると見える。
「お酒とか話とかって事です。体は……もうちょっと考えさせてください」
男相手にはした事のない駆け引きだ。体目的なのは私も同じだったから。
「了解。善処してね」
彼女もペースを取り戻してきたようで、ただの強気とは一味違う女王様然とした態度で微笑んだ。
「…………新鮮ですね。善処の強要なんて」
「目新しいのはイイ事でしょ?」
「まあ、そうかもしれません」
「今夜はよろしく。アタシ、紅子。紅って呼んで」
チェックを済ませる傍ら、唐突に告げられたのは存外古風な名前だった。
毒々しいほど鮮やかに彩られた唇に目を奪われる。
「私は翠って言います。よろしく、紅……さん」
ワンナイトの男達はもちろん、セフレ達にも教えていない本当の名前を、小一時間ほど前に出会った彼女にほいほい教えてしまうなんて、本当にどうかしていると思う。
だが、ずっと憧れていた美声の持ち主に呼んでもらえるのなら、本名一択だろう。
――――『色繋がりの名前を持つ』者同士。
そんな小さな共通点さえ嬉しくて、声には出さずにもう一度、心の中で彼女の名前を呼ぶ。
紅さん。
私は何度、この人の名前を呼ぶ事が出来るだろう。
「ん。翠でいい?」
心の中の呼びかけが聞こえてしまったのかと肩をびくつかせたが、そんなはずはない。
現に一度、私は彼女を呼んでいる。
「はい」
一歩、店の外に出ると、生温い夜風がシースルーにセットした前髪の下をくぐり抜けた。
「…………出来れば、今後ともよろしくね」
「え? すみません、何か言いました?」
付け足された一言は、タクシーのクラクションに掻き消されてしまった。
10
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
小さくなって寝ている先輩にキスをしようとしたら、バレて逆にキスをされてしまった話
穂鈴 えい
恋愛
ある日の放課後、部室に入ったわたしは、普段しっかりとした先輩が無防備な姿で眠っているのに気がついた。ひっそりと片思いを抱いている先輩にキスがしたくて縮小薬を飲んで100分の1サイズで近づくのだが、途中で気づかれてしまったわたしは、逆に先輩に弄ばれてしまい……。
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる