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逃水
第九夜
しおりを挟む「…………これって……。いや、これだけじゃ証拠とは言えないか」
首から胸にかけて、オリオンのベルトのように連なった三つのキスマークをさする。
彼女が見せようとしたのは間違いなくこれだろうが、他にもっと決定的な証拠と言えるものがどこかに残っているとしたら――――それはきっと、股間の違和感となって、すでに表れている筈だ。
「……と思ったけど、相当下手な奴かデカい奴とヤった後と、盛り上がりすぎた時でもなきゃヒリヒリもしないか……。てか、女同士って何すんの? せいぜい擦り合わせる? とかだよね、多分……」
何よりも、身体の関係を結んでいない一番の証拠と言えるのは――――。
「…………無理矢理はしない、って……紅さんは言ってたじゃん」
確か『嫌がるオンナを引ん剝く趣味はない』とか何とか。
「でもなあ……迫られても、多分嫌がらなかっただろうし……」
ただ、もし万が一にも致してしまっていた場合、美しいに違いない彼女の肢体を拝めなかったのが残念だ、なんて邪な考えが過った。
「どうだった?」
部屋に戻ると、彼女はまだベッドで寛いでいた。
当然だ。洗面所とベッドルームの往復には一分とかからない。
「なんか身に覚えのないキスマがついてました。私、一応彼氏いるって言いませんでしたっけ?」
その事は、ここへ来る前にあの店で伝えておいた筈だった。
私自身は恋人の有無など気にはしないが、彼女もそうとは限らない。
だから、そうするべきだと思ったのだ。
今になって思う。
名ばかりの、と伝えなかったのはどうしてだろう。
「うん、それは聞いた。だから、むしゃくしゃして。後悔はしてない。けど、反省してる。ごめん」
わかりにくいが、口角が微妙に下がっている。
その言葉は嘘ではないらしい。
「そんな素直に謝られると……。どうせ当分会わないし、会っても後ろから突っ込まれるだけなんで別に良いんですけど」
『好きでもないし』という言葉を呑み込んだのは、彼女に軽蔑される事が怖かったからだろうか。
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