モヒート・モスキート・モヒート

片喰 一歌

文字の大きさ
22 / 226
逃水

第十二夜

しおりを挟む

「本当ですか?」
 
「うん。アタシ、、翠としたいって昨日から言ってるのに。断る筈ないってわからなかった?」

 言わんとしていることはわかるが、『セックスはしてもキスは拒む人もいる』と実体験に基づく捻くれた考えに逃げていたら、彼女の顔が真正面に迫っていた。

 声を発する前に、頬に柔らかいものが触れる。

「ちょっと、紅さん! キスするなら、その前に一言下さいって昨日も言って…………あ!」

 ずずいっと彼女に詰め寄り、はたと気付く。

 彼女は私に向かって偉そうにアドバイスしておきながら、二回も私の頬に同意なくキスをしているではないか。

「やっと気付いた? アタシが翠にキスするの、二回目」

 彼女はピースサインを目元に翳した。

 時代遅れのその仕草を見て胸が疼いたのは、彼女に痛々しさを感じたからではない。

 私自身がよくわかっている。

 枯れ果てたと思っていた感情は、私の中にもまだ残っていたらしい。

「しかも、二回とも合意も得ずに、です」

「二回も、ごめんね」

「本当ですよ! ……と言いたい所ですけど、紅さんにとっては挨拶なんですもんね。別に良いですよ。特別です」

 今日限りの特別に意味などないのに。

「ありがと」

 彼女は私の心情など知らず、無邪気な笑顔を浮かべている。

「でも、次からは予告してくださいね」

 今日限りだとわかっていないのも、信じたくないのも、実は私も同じかもしれない。

 この部屋を出るまでに何回してくれるだろうなんて期待して、馬鹿みたいだ。

「ん。善処する」

「……って、そういえばまだ教えてくれてないじゃないですか! 誤魔化される所でした! 早く教えてくださいよ、私達がヤったのかヤってないのか」

「してない。キスマークはつけたけど、他には何も」

 猫被りをやめて即物的に問うと、彼女は淡々と答えた。
 
 これまで勿体つけていたのが噓のようだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

小さくなって寝ている先輩にキスをしようとしたら、バレて逆にキスをされてしまった話

穂鈴 えい
恋愛
ある日の放課後、部室に入ったわたしは、普段しっかりとした先輩が無防備な姿で眠っているのに気がついた。ひっそりと片思いを抱いている先輩にキスがしたくて縮小薬を飲んで100分の1サイズで近づくのだが、途中で気づかれてしまったわたしは、逆に先輩に弄ばれてしまい……。

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

落ち込んでいたら綺麗なお姉さんにナンパされてお持ち帰りされた話

水無瀬雨音
恋愛
実家の花屋で働く璃子。落ち込んでいたら綺麗なお姉さんに花束をプレゼントされ……? 恋の始まりの話。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

処理中です...