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逃水
第十四夜
しおりを挟む「あーあ。もっと色々喋りたい事あったのに……」
声に出すつもりのなかった独り言が、涙の代わりにぽろっと零れる。
「どうしてそんな残念そうなの?」
「どうして、って……」
『だって、もうお払い箱ですよね?』という言葉は、彼女に遮られた。
「今から喋ってくれれば良い。時間、あるんでしょ」
能天気な声に振り向くと、彼女は私を真っ直ぐ見つめていた。
「え?」
「今日は仕事ない……って、昨日翠が」
「ああ、そういえば言いましたっけ」
昨日、あの店に行った経緯を説明した時にそんな事を話した気がする。
「予定あるのに、付き合ってくれたって事?」
「予定? 特にないですけど」
「うん。アタシもない」
彼女が何かを期待しているのは、宝石のような二つの瞳がジェルネイルの比ではないくらいに輝いている事からわかった。
もちろん彼女が期待している事についても。
「でも、紅さんは『朝までアナタと一緒に過ごしたい』って言ってたし」
だが、臆病な私は逃げ道を探してしまう。
「そうだっけ」
彼女は眉間に皺を寄せて考えて込んだ。
私から誘ってほしいがためにとぼけている訳ではなさそうだ。
「そうでしたよ! 後は『今夜は独りでいたくない気分』とか『夜に独りは嫌』とかも言ってました。やたら夜を強調してたから、起きたらもうお別れなのかなって……」
「ごめん。多分、その時はそこまで考えてなかった」
はぁ……と吐き出した長いため息は、疲労感だけではなく安堵も含んでいて。
「……お腹空いちゃったから、ゴハン食べに行きたいな。翠、一緒に行かない?」
『良い事を思い付いた』とばかりに手を叩いた彼女を見ていると、少しずつ心の穴が塞がっていく気がした。
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