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竜舌蘭
第四夜
しおりを挟む「地図読むのは?」
次の質問も私の予想を大きく裏切るものだった。
「苦手って訳じゃないですけど…………紅さん、一つ忘れてません?」
この人と話すのは飽きないなと思いつつ、さりげなく尋ねてみた。
私達が出会えたきっかけを、私達の出会いの場所を、そう簡単に忘れられてなるものか。
私はもう決めたのだ。
過去は振り返らない主義の彼女が、何度も思い出したくなる女になってやる、と。
「何を?」
「『また会いたい』って思ってくれてるなら、私達には良い待ち合わせ場所があるじゃないですか」
彼女の『また来て』という言葉を、ちゃっかり自分に都合の良いように変換してから、もう一度尋ねる。
「……そうだった」
「良かったです、思い出してくれて。次もまた、あの店から紅さん家に連れてってくださいよ。そしたら……一緒にいられる時間も、ちょっとだけ長くなりますから」
「ん、そうしよ」
なんて捻くれた『出来るだけ長く一緒にいたい』なんだと嘆いたが、彼女は微塵も気にしていない様子で快諾してくれた。
「じゃ、今度は歩きでも良い?」
だが、話はまだ終わっていなかったようだ。
「良いですけど、歩くのが好きなんですか? 言ってくれてたら、昨日だってそうしたのに」
履いていた靴も玄関に出されていた数足の靴もヒールのあるものばかりで、とてもそうは見えなかったが。
「ううん。タクシーだと、早く着いちゃうから」
「……! 察しが悪くて、すみません。次は歩きましょう、あの店から紅さん家まで」
はにかんだ彼女の唇の色と形は、キスマークのモチーフと言っても通るほど整っていた。
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