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竜舌蘭
第九夜
しおりを挟む「半導体不足、だっけ?」
口を窄めて考えていた彼女が人差し指を立てる。
「…………も、ありますし、欲しいやつ相当人気商品っぽくて……。生産が追い付いてないみたいなんですよ」
「入荷待ちなんだ」
「はい。自分的には大きい買い物ですし、どうせ待つなら間に合わせじゃなくて、ちゃんとした製品買いたいじゃないですか。だから、覚悟決めて待とうかと思ってるんですけど……」
「一番気に入ったの、欲しいよね」
「そうなんです。でも、今すぐ必要なのに、数ヶ月先とか言われちゃうと、引っ越した方が早いって思っちゃうじゃないですか。流石にエアコンの故障ぐらいでそこまでは出来ないですし。元を辿れば、試運転とかしてなかった自分が悪いのはわかってるんですけど、なんかなあ……って感じで」
酷暑の真っ只中にエアコンが故障しただけでも災難中の災難だというのに、入手困難まで重なるとはいっそ笑えてくる。
「……アタシなら、『引っ越そう』までは思わない」
『紅さんらしくない』。
反射的にそう感じたが、私は彼女らしさを語れるほど彼女の事を知っているだろうか。
未だに職業さえ知らない人の、何を知っていると思い上がっているのだ。私は。
だが、フォローも添えずに否定だけしてくるというのは、やはり普段の彼女からかけ離れた言動のように思えた。
「あー、やっぱり。私が短気すぎるだけでしたか」
と笑った声が自分の耳にも空々しく聞こえ、たった一言で存外深く傷付いてしまった事に気付く。
「どうかな。それだけ翠が困ってるって事じゃない?」
「まあ、それはそうですね。結構参ってます」
彼女に出会えて、友達付き合いを続けられているという一生に一度あるかないかの幸運の代償にしても、流石に釣り合わないのではないだろうか。
「だったら…………」
彼女が予想だにしない提案を持ち掛けてきたのは、そんな事を考えていた矢先だった。
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