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竜舌蘭
第十三夜
しおりを挟む「……翠は、何をそんなに躊躇ってるの?」
彼女はどんな時も一直線に核心を突いてくる。
情熱の色を乗せた唇に手を伸ばしたい。
いずれにしても同じ『紅』だが、その鮮やかな色に惹かれているのか。唇の形や動きに惹かれているのか。
ただ、闘牛に熱狂する観客とムレータに向かっていく牛と。私自身がどちらに近いかなど、今考えるべき事ではない。
きっ、と彼女を見つめ返す。
澄み渡る瞳は、雲のない真夏の空にも勝る美しさだ。
睨み付けるような形になってしまい、胸が申し訳なさで一杯になった。
「私には、紅さんにそこまでしてもらう理由がありません。……ないんですよ、どう考えても……」
常日頃、思っていた事だ。
私達の間のギブアンドテイクの均衡は保たれていない、と。
何かしてもらったら、その都度可能な限りのお返しはしているが、十分とは言い難いだろう。
招く側と招かれる側、どちらの負担が重いかなど論ずるまでもない事だ。
そもそもの話、『私の側から先んじて彼女に何かをした』事が、今までに何回あっただろう。
「理由がない?」
彼女が眉を持ち上げた。
「はい」
「涼しい場所で寝たくない?」
「もちろん涼しいに越した事はないですけど」
隠す気のない苛立ちが、憎たらしい程平坦な声に立ち込めている。
何故わかりきった事を訊くのか、と。
そんな簡単な基準で決断出来る人間であれば、初めからここまで悩んではいないから。
「……そう。翠はアタシじゃないもんね。ちゃんとしてる。『したい』じゃ……理由にならない、みたい」
美しい顔のパーツがわずかに歪んだ。
しかし、そこに浮かんだ切なさを払う権利を私は持っていない。
何故なら、それは彼女が繰り返し言っていた事であり、行動で示してくれてもいた事でもあった。
『したい事は、すれば良い』――――。
頭ではわかっているくせに。
彼女のように軽やかに生きたいと心から望んでいるくせに。
ここまで譲歩してもらっても、首を縦に振る事一つ出来ないとは。
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