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竜舌蘭
第二十三夜
しおりを挟む「粘って良かった。でも、アタシにとっては全部、大した事じゃないって覚えてて。自分の事、そんなに卑下しないで良い」
彼女は相好を崩し、カウンターの下で私の手を握った。
ささくれを放置したままの無骨な手や、妙なべたつきのある不衛生な印象の手とは違う、極上のシルクのような滑らかさ。
「……っ! ありがとう、ございます」
きっと誰も見ていない。
見ていたとしても、励ますような――握るというよりは重ねるような――握り方だ。
眉を顰められるおそれはないだろうし、彼女にも親愛の情を示す以上の意図はなさそうだ。
「…………翠は、アタシにとって……」
背後のジャズと調和するしっとりとした美声は、そこで途切れてしまった。
「気になる所で切らないで下さいよ。そこまで言ったんですから、最後まで聞かせてほしいです」
私が結論を出せない時、彼女はゆったり構えて待ってくれるのに。
反対側の拳を握り締めていると、立体感のある小顔が寄せられた。
「こういう事、二人っきりで言われた方が嬉しい?」
他人の振る舞いに寛容で、要所要所で細やかな気遣いを発揮する紅さんらしい台詞だ。
「…………!」
『ベッドの上でも尽くすタイプに違いない』――――。
偏見と煩悩で構成された主観を、モヒートと共に流し込んだ。
一人相撲するきらいのある私には、やはりこれが欠かせない。
「どこで言われても嬉しいですよ。好きな人からの褒め言葉なんですから。でも、二人だけの時の方が……恋人感はありますね?」
コン、と置いたグラスの中身は底を突きかけているが、積み重なった氷も同じく透き通っていた。
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