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薄翅蜉蝣
第九夜
しおりを挟む目が覚めてすぐ、窓のある方を向くと、やはり先に起き出していた彼女が私を見下ろしていた。
起き抜けでも女神のように美しい。
「私の身体なんだから、そろそろ空気読んでほしい……」
しかし、眠りに落ちる直前の事を思い出し、清々しい気分は一転、窓の外の晴天とは正反対の曇り空に塗り替えられてしまった。
「でも、特別なキス、どんなかわかったでしょ?」
彼女は、長い溜め息を吐く私の頭を撫でている。
だが、その視線はピアススタンドの方を向いていて、今日付ける物を物色しているのが丸わかりだ。
慰めてくれるつもりがあるのなら、それらしくしてほしい。
具体的には……そう。
私の方を向いてくれるだけで良いのに。
「それは……はい。確かに挨拶とは違いましたけど。いつもあんな感じでしてたんですか? 寝てる私相手に」
「唇にはしてない」
私の内面をよく表したトゲのある詰問も、彼女はお得意の話法でひょひょいと躱す。
「……けど、胸元にはしてた、と。納得です。そりゃ痕も付きますね……」
最初に付けられてからこっち、私の首から胸にかけては、季節外れのオリオンのベルトが輝いている。
鏡に映さなくてもわかる。
寝ている間にまた、その三連星が輝きを増したのであろう事は。
「今日は……」
「え?」
思った事はその場で言う彼女の声が話の途中でフェードアウトしていったので、何事かと口を開けたアホ面で見上げると、そこには私からよく見える側の耳に髪を掛けた彼女がいた。
「……ピアスの穴」
彼女はまたそこで言葉を区切る。
「ピアスの穴……が、何か?」
何を訴えたいのかわからなくて、眉間に思い切り皺が寄った。
――――今日の紅さんは、『らしくない』。
「寂しそうに、見えない?」
そこまで言われて、己の鈍感を恥じたと共に、奥底からふつふつと湧き上がる歓喜を感じた。
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