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薄翅蜉蝣
第十夜
しおりを挟む女王様然とした彼女なりの甘え方なんだろう。
昨晩は真正面の彼女ばかり見ていたから、ピアスの穴の事なんて頭になかったし、あの日以降、一度も耳に空いた穴が寂しそうに見えるなんて事はなかった。
ピアスを外した彼女に『ある筈の物がない少しの違和感』程度は抱いていたかもしれないが、それ以上の感慨はなかった……と思う。
「……他の所に見惚れてて。そう言われると、寂しそうに見えてきたかもしれません」
――――嘘だ。
前半はともかくとして、後半は。
彼女の手持ちの一軍リップスティックよりも真っ赤な嘘を吐く唇は、きっといつも通りくすんでいて、ほとんど色も付いていないだろう。
――――ああ、なんて白々しい。
してほしい事ははっきり言われないと気持ち悪くて腹が立つタイプだった筈が、とっくに恋の奴隷に身を落とした私は、ワガママで突発的な命令が課せられようと、応じない訳にはいかなくなっていた。
血行不良か何か知らないが、原因なんて知った事か。
今は、いつもより一回り以上小さく見える彼女を元気付ける方が先決だ。
「ピアスの穴っていうか、紅さんが」
貧弱な腹筋も、火事場の馬鹿力を出してくれたようだ。
起き上がって、丁度顔の前に来た耳に恭しく口付けたあと、余韻を残すために急がずゆっくりと身体を引いた。
「…………寂しさ、少しはマシになりました?」
王子気取りで尋ねたが、せいぜい騎士が良い所。
そもそも、女王の相手は王であるべきだ。
脳内のごっこ遊びでくらい、対等だと思い上がっても罰は当たらないだろうに、私にはどうもそれが苦手なようだ。
「ん。もう大丈夫。ありがと」
と言ってはいるが、声に元気がない。
おまけに前髪がぐっしょり濡れるほど汗を搔いているし、顔色もあまり良くない気がする。
暑いと言ってもエアコン故障中の麗しの我が家には遠く及ばないとは思うが、現在は駆動音も聞こえない。
就寝時専用モードに設定されているそれが一時的に運転を停止してしまっている事に加え、照り付ける日差しも容赦なく室温を上げており、この季節特有の不調の名称が脳裏に浮上した。
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