モヒート・モスキート・モヒート

片喰 一歌

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薄翅蜉蝣

第十一夜

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「さっきの紅さんも可愛かったですけど、珍しいですね。私が離れていく夢でも見ました? すごい汗……」

 体調があまり良くないのではないだろうか。
 
 そういう時に限って不快な悪夢を見るものだ。

 ……と見当を付けたが、強気なこの人が体調不良を素直に認めるタイプだとは到底思えなかった。

「……ううん。暑くて」

 適当に振った話でしかないのに、彼女は蚊の鳴くような声で答えた。

「そうですか? なら、良いんですけど。あ、お水飲んでおいた方が良いと思いますよ。私、持ってきましょうか。暑くてバテちゃったんですかね。……紅さん、私の心配ばっかりするから。ちゃんと自分の健康も気にしてました?」

 思った以上に元気がなさそうだ。

 いよいよ心配メーターが振り切れてしまった事もあり、脳裏に浮上した季節性の不調の名称を出してみる。

「ちなみにですけど、今日のご予定は?」

 多分、仕事なんてしている場合ではない。
 
「休み。だけど、用事あって……」

「そうなんですね。別の日にしてもらうとかは?」

 リスケ一択としか思えず、提案したが。

。……から、行かないと……」

 彼女はタオルケットで豪快に汗を拭って言い切った。

 忘れかけていた『マダム・ルージュ』という名前の歌手のイメージが再び彼女と重なった。



「私、送っていきましょうか。車で」

 氷いっぱいのグラスに注いだミネラルウォーターを飲み干し、少し顔色の良くなった彼女に訊く。

「翠は? 仕事じゃないの?」

「私も休みです」

「そ。でも、平気。ありがと」

 彼女はひらひらと手を動かした。

 少しでも恩返ししたいんだから、遠慮しなくて良いのに。

「駅まで着いてくのもダメですか?」

「迎え、来てくれるから。……下まで」

 つれない返事に食い下がると、意外な事情が明かされた。

「そういう事なら、安心ですね」
 
 送迎付きで代役が立てられない仕事であればまだしも、その条件を満たす用事とは一体何なのか。

 なんとなく聞くのが怖くて、強引に話を終わらせた。
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