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金糸梅
第十五夜
しおりを挟む翌朝、シャッキリ目覚めた私は、いつものようにいつまでもベッドの上でうだうだうぞうぞする事なく、スッと洗面所に直行する事が出来た。
寝落ち……即ち気絶は睡眠とは言えないらしいという知識だけはあったが、久々にきちんとした睡眠を取れたという事なのだろう。
主張の激しい文字盤が示す時刻も少し早かった事だし、良い一日になりそうだ。
すっかり御馴染みとなったオリオンのベルトは薄れているように感じたが、光の加減か眼精疲労かなにかだろう。
起きた時に隣にいなかった彼女はきっと、私が起き出す前を狙って昨晩付け損ねた分を上に重ねた筈だから。
洗顔と軽いシャワーを済ませて寝室に戻ると、丁度紅さんがドレッサーの前でリップスティックを構えている所だった。
「紅さんはブラシ使わない派なんですね」
『大らかな彼女らしい』という思いが口を衝いて出る。
「翠は使う?」
彼女は声で入室に気付いたらしく、化粧を中断してこちらを向いた。
「はい、よっぽど急いでる時でもない限りは。仕上がりの印象が大分変わってきますからね」
「そんな違う?」
「違いますよ。私も前までは直にいってたんですけど、BAさんに勧められて一回使ってみたらまんまとハマっちゃって。口の端の幅のない部分とかキワとかそういう細かい所まで塗れるし、ベタ塗りにならないから綺麗に見えますし、使った方が定着してくれるんで……ってすみません。メイク中断させた上に興味ない事まで聞かせちゃったかも……」
「そうなんだ。……ねえ、翠」
興味を示してくれたのを良い事に、強制的にマシンガントークを浴びせてしまい縮こまっていると、彼女は私の方までずかずかやってきた。
「はい」
「嫌じゃなかったら、教えてほしい。リップブラシの使い方。アタシの唇で実演、してくれない?」
何をする気かと思いきや、願ってもない提案だ。
キスマークのモチーフと言われてもうっかり信じてしまいそうなほど整った彼女の唇を私の手で彩色させてもらえるなんて。
「口頭での説明って、あんま頭に残りませんよね。全然嫌じゃないですし、構いませんよ。ええと……今日着けるのは、今手に持ってるので良いんですよね?」
「そ。……他の色と合ってない?」
手の中の物と彼女の顔を見比べ、完成図を描いていると、珍しく自信なさげな声が耳に届いた。
「そんな事ないですよ。それ塗るんだったら、お借りしないといけないなあって思っただけで」
「そっか。うっかりしてた。ごめんね」
彼女は真夏の陽射しがよく似合う笑顔でリップスティックを私に握らせ、ドレッサーの前まで引っ張っていってくれた。
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