84 / 226
金糸梅
第十六夜
しおりを挟む早速、メイクボックスを開き、ホルダーからリップブラシを取り出した。
紅さんはドレッサーの右半分を丸々貸し出してくれていて、右側の引き出しも使って良いとの事なので有難く使わせてもらっているが、普段使いの道具は全てボックス内に収まっている。
「じゃあ、始めますね」
と声を掛けると、彼女は大きな瞳を収納した。
「よろしく」
口紅を塗るのに目を閉じる必要はなかったが、彼女に見つめられながら平常心を保っていられる自信はない。
手元がぶれてしまう心配をせずに済むので、命拾いしたと言えるのかもしれなかった。
しかし、すぐに『この顔はこの顔でキスの直前のようだ』といういらぬ事実にまで気付いてしまい、落ち着かない気持ちで渡されたリップをブラシに取る。
「紅さんにしては、落ち着いた色のチョイスですね?」
先程までは気にも留めていなかったし、色名に詳しい方ではないので記憶違いをしている可能性も高いが、知っているものの中ではカーディナルレッドが最も近いだろうか。
「秋っぽいでしょ」
モヒートの次に好きなカクテルの名前が入った色で美しい唇を彩っていく。
「はい。そういうのも似合いますね」
話し掛けられた日の最初の一杯も、もしかしたらカーディナルだったかもしれない。
「ありがと」
「服と違って、気軽に季節先取り出来るのが良いですよね。メイクだと」
「うん。春夏は出来なくもないけど、他はキツイ」
偶然の巡り合わせににやにやしていると、彼女の唇に色を付ける仕事はあっという間に完了してしまった。
「お疲れ様でした。全然考えてなくて、いつもと同じくらいのスピードでやっちゃったんですけど、なんとなくわかってもらえましたかね?」
「平気。ありがと。今度、翠の真似してやってみる」
喋る彼女の口元に注目していたが、元が魅力的なので良い仕事が出来たかどうかは判断出来なかった。
「そうしてください」
「これ、新品の匂いしてた」
彼女は使用していたリップブラシを指した。
「ポーチに入れてはいましたけど、ちゃんと新品ですからね。人様に塗るのに、自分が使ったやつ使いませんって。あ、でも製品自体の良さはちゃんとわかってるんで、安心してほしいです。このリップブラシ、使いやすくてお気に入りで。もう何回もリピしてるんですよね」
「翠のお気に入り、知れて嬉しい」
そして、真っ赤な唇をにっこりさせた後――――。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
小さくなって寝ている先輩にキスをしようとしたら、バレて逆にキスをされてしまった話
穂鈴 えい
恋愛
ある日の放課後、部室に入ったわたしは、普段しっかりとした先輩が無防備な姿で眠っているのに気がついた。ひっそりと片思いを抱いている先輩にキスがしたくて縮小薬を飲んで100分の1サイズで近づくのだが、途中で気づかれてしまったわたしは、逆に先輩に弄ばれてしまい……。
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる