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夕顔別当
第十四夜
しおりを挟む「めっちゃ好きじゃないですか」
と私が笑うと、彼女は『紅さん』の笑顔に戻った。
「翠は? モヒートと同じくらい好きなもの、ない?」
「難しい質問ですね。ちなみに紅さんのことはモヒートより好きですよ」
「ありがと」
「じゃあ、そんな感じで。……約束ですからね。『マダム・ルージュ』の歌はライブに聴きに行きますから、カラオケでは他の歌手の歌、紅さんバージョンで聴かせてください。懐メロとか聴きたいです」
「任せて。来月のライブ、最前用意したげるから」
持ち歌もわからないうちから図々しいリクエストをしたら、彼女はどんと胸を叩いてみせた。
「良いんですか? ていうか、来月ライブあるんですか!?」
顔を出す事にどうしても抵抗があるのだとしても、彼女は仕草も可愛らしいのだから、実際の動きとリアルタイムでリンクさせた3Dモデルでも付ければ、少なくとも今よりも人気は出ると思うのだが。
「あるよ」
今度はマイクを構える彼女だが、確か『機械に疎い』とも言っていたし、その辺りにも事情があるのだろう。
機会があれば、その時に訊いてみれば良いだけだ。
「人生初のコネチケゲットだぜ」
コネチケ自体はどうでも良いが、ライブ参戦が確約しているのは喜ばしい事だ。
生まれてこの方誰かに熱狂した事もないくせに、そんなオタクじみた言い回しが自然と出てきてしまったのも、旧友の影響だろうか。
今なら彼女の気持ちが少しだけ理解出来るのに、もう二度と会う事はないなんて。
寂しいとは少し違う気がするが、今胸を刺したのは、恐らくそれに近い感傷だった。
「……もう一回確認しますけど、本当に良いんですか? チケットは当然自分で取るつもりでしたし、『マダム・ルージュ』は紅さんが把握してる以上に人気あると思うんですけど」
SNSに投稿された彼女のファンによるオンライントークのレポートを思い返す。
アーティスト側もファンの側も数の大小で一喜一憂してしまいがちだが、それはきっと本来ならば許される事ではない。
掛けている金額や時間、即ち熱量がどうという問題でもなく、どんなに難しくても、そこに一人一人の人間がいるという事実を認め、時にはアンチにすら分け隔てなく感謝出来る人でなければきっと――――色んな意味で一流には届かない。
「観てほしい人呼んで、何が悪いの? アタシ、翠が来てくれる公演は、全曲翠に向けて歌うつもり。だから、来てもらえなきゃ意味ないの」
しかし、それをどこかで理解しながら、彼女はただ一人を重んじると言ってのけた。
「紅さん…………」
それだけ純度の高い想いは、届けたい相手を越えて、無関係の大衆の心をも掴むのかもしれない。いや、そうであってほしい。
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