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夕顔別当
第十七夜
しおりを挟む「『マダム・ルージュ』のファンも、外見の予想位は皆してると思うし、別に良い。けど、立ち絵とか3Dモデルとか下手に出すと、イメージ、固定されちゃわない? 頭では本人と違うってわかってても、声聴くと、その絵とかモデルが浮かぶようになる」
彼女は綺麗な鏡に手を伸ばしたが、その手は鏡面に触れる前にドレッサーの上に落ちた。
「…………確かにそういう面はありそうですね」
「なら、最初から、皆それぞれの『マダム・ルージュ』を想像してもらった方が良い。アタシと全然違う細身の『マダム・ルージュ』のイメージが独り歩きするのは……怖いし、嫌」
「『悪い意味でのギャップで失望させたくない』って事ですか」
「そ」
「……でも、どんなに見つかってほしくないとしても、いつかは出ちゃうと思いますけどね。人気」
「なんで?」
「『紅は園生に植えても隠れなし』って言うでしょう?」
翠色とは、樹木の緑色を指すんだったか――――と薄れかけた記憶を引っ張り出した。
大分無理くりかもしれないが。こんな所にも私達二人の要素が隠れているとは思わなかった。
「その諺の読み方、『べに』じゃなくて『くれない』じゃない?」
わざと読み違えた諺へのツッコミが飛んでくる。
「そうですね。でも、字にしちゃえば一緒です」
「翠、結構テキトーだよね」
「そうですね。そこが私の長所で、短所です」
「長所だよ」
「ありがとうございます。そういう事にしておきます」
そう言い終えるのとほぼ同時に、腹の虫が空腹を訴えた。
「……ゴハンにしよっか」
「そうですね。お腹空きましたし」
キッチンに移動すると、トーストの焼ける匂いが鼻を擽った。
「パン焼いておいてくれたんですか? ありがとうございます」
「ん。でも、結構経っちゃったから、あっため直そ。サラダ、出してもらって良い?」
彼女は壁に掛かったフックからレードルを取り、背中で言う。
「もちろん。今日はどっちで食べます?」
私達はキッチンにあるテーブルで食事を取る事もあれば、リビングで食卓を囲む事もあった。
「お腹空いちゃったから、ここで食べる?」
私の腹具合を思っての提案だろう。
「……だと、嬉しいです」
「じゃ、ここで。スープもあっためちゃうね」
即答すると、彼女はサニーサイドアップの目玉焼きと焦げ目付きのウィンナーが乗った皿を渡してくれた。
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