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夕顔別当
第二十夜
しおりを挟む美味しい朝食と好きな人との甘いひとときに満たされて――――もしかしたら、睡眠というインターバルを挟んでしまったせい……というのもあるかもしれない。
愚かな私は、昨夜の常ならぬ紅さんの様子について、この時にはすでに覚えていなかった。
突然始まった赤ちゃんの話も、ボリュームダウンしたお腹も。何故か強烈な眠気に襲われる事がなかった事も。
――――薄れていたキスマークだって、気のせいの一言で雑に片付けて。
私が覚えていた事と言ったら、彼女が最初に提示してきた方の意味で『一緒に寝る』約束を取り付け直して来てくれた事だけ。
私が気にしていた事と言ったら、私達が『そういう関係』になるのはいつになるかという事で。
翌日からは、原因不明の睡魔に襲われる日々が帰って来たのだが――――数日経って、私はある気付きを得ていた。
「ん……っ」
「……ふふ。翠、可愛い」
彼女は今日もオリオンのベルト補強工事に勤しんでいた。
胸に輝く三連星は二人だけの秘密だ。
元々、スタイル(というか胸囲)に自信のない私は、夏だろうが暑かろうがデコルテをガバッと大胆に開けたデザインを極力避けていた関係で、そこに何があろうと痛くも痒くもないのだが、最近はというと、肉体関係もないのに残されるその証拠に現実を追い付かせたい衝動を抑えるのに必死だった。
いつになったら彼女は本懐を遂げる気になるのだろう。
(私の基準では)長い事禁欲中のアソコが切なくなった。
「からかわないでくださいよ……」
「正直な感想、言っただけ」
作業を一時中断した彼女が私の胸元で喋っている。
「そうですか……」
「キス、したくなった?」
彼女はこういう時にだけ、意識的にセクシーな表情を作っていると思う。
「したいです。でも、もう少し待って…………」
本当はキスしたくて堪らないのにそう答えたのには理由があった。
――――彼女にキスされると、途端に眠くなってしまうから。
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