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夕顔別当
第四十二夜
しおりを挟む「ちょっと、何するんですか……!」
抗議の声を上げるも、声も顔も笑ってしまって。
「シャワーなら、触ったうちに入らないと思って」
真顔で言ってのけた彼女も、私の様子を見てはにかんだ。
「それで、私の事まで流そうとしてくれたって訳ですか。ご丁寧にどうも」
文字だとただの憎まれ口だが、実際にはとても情けない顔をしている。
……見せる手段がないのが惜しい位に。
「ダメだった? ……あ、クレンジング。ごめん」
「いえ。水に濡れても大丈夫なやつです、一応。まあ、乾いた肌の方が落ちやすいのは確かでしょうけど、この程度だったらそんなに変わらない筈なんで、落ち込まないで下さい」
「じゃ、お詫びにアタシがクレンジング……」
ぱあっと明るくなった彼女は、舌の根も私の肌も乾かぬうちにちゃっかり約束を破ろうとしてきた。
「それは結構でーす!」
と胸の前で×印を作ると。
「残念。翠、ガード固過ぎ」
彼女は天晴れと言わんばかりの笑顔で親指を立てた。
「ええ。本命にだけは」
全裸の解放感がそうさせるのか、うっかりそんな事を口走ると。
「ふふ。知ってた。その割に、されたそうだけど」
彼女の視線が私の全身を舐め回す。
「……私も知ってますよ。紅さんが『本命にだけはなかなか手出せないタイプ』って事」
「バレちゃってた?」
「まあ、今のはカマかけですけど。本当にそうだったってわかって、ちょっと安心しました。……にしても、紅さんってルールの穴突くの上手そうですよね」
――――触ってもいないのに、その気にさせられてしまったのだから。
「褒めてる?」
「褒めてますよ。私の基準では、ですけどね」
にっこり笑んで、奪い返したシャワーでお返しすれば、彼女は湯船に入った。
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