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鶯音を入る
第十五夜
しおりを挟む「教えて……くれますか?」
鼻水を啜り、自分の腕で豪快に涙を拭いてから、再度確認を取る。
「当然」
彼女は短く答えた。決意が揺らぐのを恐れているようでもあった。
「紅さん、すごく話しにくそうにしてたから、聞かれたくないのかもって思ってたんですけど……本当に大丈夫ですか?」
「……怖がったり、気味悪がったりされるのは、仕方ない。人間だったら、多分アタシも『怖い』、『気持ち悪い』って思ってた。でも、ちゃんと話聞く前に、決めつけられて、拒絶されるのは、きっと耐えられない。だから…………ホント、良かった」
力無く微笑む彼女は痛々しくて、弱々しい。
今回はあくまで比喩的な表現として小さく見えて、思わず抱き締めていた。
「怖がらない保証も、気味悪がらない保証もありません。でも、何を感じて、どんな事を思っても、絶対表に出しませんから……話して下さい。…………知りたいんです、私の大好きな紅さんの事……」
「……ありがと。じゃ、話すけど……」
控えめに私を抱き返した彼女の心臓の音が伝わってくる気がした。
「…………翠は、『蚊が何のために人間の血を吸うか』、知ってる?」
「何のために? 私たち……っていうか、日本人にとっての白米みたいなものだと思ってたんですけど…………すみません、言葉が出て来ない……」
「主食って事?」
「あ、そうですそれです! 主食! でも、ご飯食べる理由って何だろ……。身体を動かすのに必要なエネルギー源? 栄養素?」
「だよね。知らないのが普通。……だけど、翠。蚊の主食、血じゃないよ」
彼女は耳の近くで淡々と語る。
とっくに塞がったピアス穴の中を人工的な風が潜り抜けていった気がした。
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