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鶯音を入る
第十六夜
しおりを挟む「え、そうなんですか? じゃあ、特別な時に食べる……御馳走みたいなもの……? おせちとかお赤飯とか。……なんて、食い意地張りすぎですね、私。……って言っても、今更か。普段から紅さんのご飯、三人前くらいペロリですし!」
無駄に明るく言うと、彼女は照れたようにはにかんだ。
「お祝いとかじゃない。……けど、特別な時なのは合ってる」
「お祝いじゃない、特別な時?」
「…………。翠は、聞いた事ない? 『吸血するのは、メスの蚊だけ』って……」
彼女の耳には、現役のピアス穴が開いている。
私はそれに寂しさを感じない代わりに『美しくない』と思ってしまった。
だって、近くに寄って初めて確認出来るその目立たない穴は、蚊に刺された後のようではないか。
忌々しい夏の虫が、人の肌から血を吸った痕跡にそっくりだ。
――――人間が作る痣なんかよりずっと。
「どこかで聞いたような気がしなくもないです。でも、なんでだっけ……」
そもそも理由まで知っていただろうか。
知っていなくても、凡そ見当は付いてしまう。考えたくなくても、その答えに行き着いてしまう。
『だから、聞かないで』――――。そう願っていたのに。
「ヒント、出すね。『メスしかしない事』。だから、オスは血を吸う必要ない」
淡々と語る彼女の唇が血に濡れている幻覚まで見え出した。
貴女はこれまでに何回、目的を果たすために私の血を吸ったんだろう。
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