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鶯音を入る
第十九夜
しおりを挟む「それに……私、忘れてませんよ。あの時の話も、…………」
思い返せば、彼女の振ってきた話題だけでなく特定の単語を耳にした時の態度など、ヒントはあちこちに転がっていた。
「あの時の話?」
すべて彼女からの無意識のSOSだったかもしれないのに、それらの違和感を見過ごしていたのは私だ。
「『もし翠が生まれたばっかりの子と離されて二度と会えなかったら、どう思うか』……みたいな話の事です。『取り上げられて、そのまま取り上げられっぱなし』的な……。言葉遊びしてる場合じゃないですけど」
「…………覚えててくれたんだ。忘れてくれて良いのに……」
彼女は、ほうっとため息を吐いた。
きっとマッチ売りの少女がマッチを灯して幸福な幻想を見ていた時も、今の彼女のような表情を浮かべていた事だろう。
こんな些細な事で感激しなくて良いのに。
私がその日の事を覚えていたのは、明らかに紅さんの様子がおかしかったからであって、ちゃんとした占星術師も雇わずに、スタッフが適当に決めているとおぼしきTV番組の星占いのラッキーカラーを、私の星座の分だけ毎日覚えていてくれる貴女の方が、ずっと愛情にも思いやりにも溢れているではないか。
「忘れる筈ないじゃないですか。あの時してくれたのは、例え話でも知り合いの話でも思考実験でもなくて、紅さん自身の話だったんですね……」
あの日の彼女は、自己申告してきた以上に弱っていた。
直前まで膝枕をしていたにも拘らず、『抱っこしたい』と珍しく頼んできた事なんて、最もわかりやすいSOSだったかもしれない。
あの時、深く傷付けてでも聞き出していたら――――今とは違う未来があったのかと思う。
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