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鶯音を入る
第三十四夜
しおりを挟む「穴は…………」
彼女は何かを言いかけてやめた。
「え?」
「穴は、翠にとって、寂しさの象徴なんじゃなかったの?」
だが、構わず聞き返すと――――細やかな気配りを得意とする彼女らしい言葉が返ってきた。
「だからです」
逡巡を重ねる唇も大層美しい眺めだったが、そんなものより会話か、そうでないなら唇同士を重ねる方が好ましい。
「え?」
「『責任取って、ずっと埋めてて下さいね』、って意味です。寂しさを感じるリスクを冒してわざわざ新しい穴を開けるんです。寂しくならないように……寂しくなったら、でも良いですけど。何にせよ、開けた人に埋める責任があるなんて当然の事ですよね?」
行き詰まった現状を打開する=風穴を開けるためにピアスの穴を開けようだなんて、私にとっては真剣な願掛けであったとしても、はっきり言ってダジャレや言葉遊び以上の意味なんてない。
だから、紅さんにはそんな茶番に付き合う義理などない筈だ。
でも、付き合ってくれるというのなら、遠慮する理由なんてないどころか最大限に利用する。
「…………翠って、意外と重いオンナ?」
そんな『翠』という人間の在り方を完璧に理解した紅さんは、挑発的な笑みを浮かべた。
危険や情熱を表す色を乗せた唇で。
「自分でも意外な事にそうだったみたいですね。私がピアスだったら、紅さんの耳たぶなんて、とっくに裂けちゃってたんじゃないかと思いますよ」
紅さんは私にしか通じない表現で、私は紅さんにしか通じない表現で話す。
秘密の暗号でやりとりしているみたいだと思ったのと同時に、『私が悲観していた程、私達の心の距離は遠くなかったのかもしれない』とも思えた。
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