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『言葉を持たぬ国と、性別未確定の誘惑』編
第99話『無言の舞踏──心を読み合う夜会』
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夜の王都──石畳の道に灯るランタンの光が、まるで星座のように連なっていた。
その中心に佇む白亜の城──《無言の宮廷》と呼ばれる建造物は、今宵だけ“仮面舞踏会”の舞台として開放されていた。
言葉は禁じられている。
その代わりに、人々は表情と香り、そして舞で心を伝えるのだという。
流星は、緊張しきった顔でその会場の扉を見つめていた。
(……無言で、しかも性別があやふやな人ばっかって、俺、生きて帰れるのか……?)
もちろん、ただの舞踏会ではない。
この国特有の“言葉なき契約儀式”──手を取り、心を重ねることで誓いを交わす場でもあるのだ。
「行くよ、流星。情報を得るには、文化を体験するしかないんだから」
アリシアが真顔で肩を叩く。
その隣で、リリアが小声で言う。
「……でも、絶対変な奴に口説かれたら殴るからな」
ミレーユは溜め息まじりに言った。
「“仮面”って情報、少し不穏すぎません? 顔が見えないとか……信用できないでしょ」
ヴァネッサは筋肉を強調した正装で、すでにやる気満々だった。
「私は逆にイケメンに“押されてみたい”から楽しみなんだけど~♡」
扉が開かれ、甘く淡い香の風が吹きつける。
舞踏会の空気は、香水とシルクの気配に満ちていた。
◆
会場内は広く、光は柔らかく、そして何より“静か”だった。
演奏すらも“無音のリズム”として、糸のように張り詰めた空気の中で奏でられていた。
男も女も──否、区別すらつかない存在たちが、仮面をつけて踊っている。
肌の白い者、褐色の者、目の隠れた者、長身の者、線の細い者。
それぞれが誰かの手を取り、回転し、見つめ合い、黙って頷いていた。
(……本当に、“言葉”がないんだな)
流星は思った。
視線を交わすだけで、感情が伝わる。香りを交えるだけで、意思が読める。
だが、それは“怖さ”でもあった。
(俺みたいな“外の人間”が、うまく立ち回れるのか……)
そのとき──
誰かが、そっと流星の手を取った。
仮面をつけたその人影は、長身で細身、肌は透けるように白く──
そして何より“美しい”雰囲気を纏っていた。
男なのか、女なのか、判断できない。
だが、香る空気は甘く、どこか懐かしくもあった。
流星は、流れるようにその手に導かれる。
そのまま一回転、二回転。
息遣い、衣擦れの音、そしてわずかな熱だけが、全てを語っていた。
(……不思議だ。名前も、性別も、何もわからないのに──この人と踊るの、嫌じゃない)
そのときだった。
その人物が、流星の耳元にそっと指先を当てた。
そして──仮面越しに微笑む。
次の瞬間。
流星の脳裏に、はっきりと“香りの記憶”が流れ込んできた。
(これは……昼間、夢で見た“あの香り”!?)
目の前の人物は、昼の夢に現れた存在と“同じ香り”を放っていた。
つまり──
(この人が、俺に“恋文”を送った相手!?)
心臓が跳ねた。
だが、それと同時に。
(……待てよ。あの夢、“どっちの性別か”わかんなかったんだよな)
視線を向ける。だが、仮面の奥に“答え”は見えない。
香りだけが、確かに“好意”を示していた。
性別が、関係ないのかもしれない。
それがこの国の──“愛の形”なのだとしたら。
(俺は、どうすればいいんだ?)
──そのとき。
流星の背後から、殺気を感じた。
「……おい、流星。それ、誰?」
振り向けば、仮面を取ったリリアが立っていた。
顔は笑っている。だが目が笑っていない。
その隣に、アリシアが腕組みして睨みを効かせている。
ミレーユが冷ややかに一言。
「……あれ?もしかして惚れてません?」
ヴァネッサは大爆笑していた。
「やっぱイケメンだった!? 流星、そういう趣味だったのか~!?」
流星は、顔面蒼白になった。
「ち、違うって!! 俺は……俺はただ……誘われて……!」
その背後。
仮面の人物は、そっと手を口元に当てて“笑った”。
そして静かに、香りを振りまいて消えた。
まるで夢のように。
◆
「なぁ、みんな……俺、ちょっと混乱してるんだけど」
会場を後にして、流星は呟いた。
「愛ってさ……性別とか、言葉とか、なくても成立するものなのか?」
アリシアが答えた。
「この国においては、そうなのかもしれないわ」
リリアが小声で。
「でも私は、ちゃんと“言葉にしてくれる”方が嬉しいけどな」
ミレーユは照れ隠しのように言う。
「まぁ、流星が変な方向に進まなきゃ、見守るよ」
ヴァネッサは両手を広げて叫んだ。
「てことで、あたしが相手してやるから迷わないで♡」
「お、おい、やめろってばぁああああ!!」
月明かりの下、流星の悲鳴が響いた。
しかし、彼の胸には確かに残っていた。
あの仮面の微笑みと、香りの記憶。
(あれは……なんだったんだろうな)
言葉がないからこそ、伝わった“何か”。
それは、まだ名もなき恋の形だったのかもしれない──。
その中心に佇む白亜の城──《無言の宮廷》と呼ばれる建造物は、今宵だけ“仮面舞踏会”の舞台として開放されていた。
言葉は禁じられている。
その代わりに、人々は表情と香り、そして舞で心を伝えるのだという。
流星は、緊張しきった顔でその会場の扉を見つめていた。
(……無言で、しかも性別があやふやな人ばっかって、俺、生きて帰れるのか……?)
もちろん、ただの舞踏会ではない。
この国特有の“言葉なき契約儀式”──手を取り、心を重ねることで誓いを交わす場でもあるのだ。
「行くよ、流星。情報を得るには、文化を体験するしかないんだから」
アリシアが真顔で肩を叩く。
その隣で、リリアが小声で言う。
「……でも、絶対変な奴に口説かれたら殴るからな」
ミレーユは溜め息まじりに言った。
「“仮面”って情報、少し不穏すぎません? 顔が見えないとか……信用できないでしょ」
ヴァネッサは筋肉を強調した正装で、すでにやる気満々だった。
「私は逆にイケメンに“押されてみたい”から楽しみなんだけど~♡」
扉が開かれ、甘く淡い香の風が吹きつける。
舞踏会の空気は、香水とシルクの気配に満ちていた。
◆
会場内は広く、光は柔らかく、そして何より“静か”だった。
演奏すらも“無音のリズム”として、糸のように張り詰めた空気の中で奏でられていた。
男も女も──否、区別すらつかない存在たちが、仮面をつけて踊っている。
肌の白い者、褐色の者、目の隠れた者、長身の者、線の細い者。
それぞれが誰かの手を取り、回転し、見つめ合い、黙って頷いていた。
(……本当に、“言葉”がないんだな)
流星は思った。
視線を交わすだけで、感情が伝わる。香りを交えるだけで、意思が読める。
だが、それは“怖さ”でもあった。
(俺みたいな“外の人間”が、うまく立ち回れるのか……)
そのとき──
誰かが、そっと流星の手を取った。
仮面をつけたその人影は、長身で細身、肌は透けるように白く──
そして何より“美しい”雰囲気を纏っていた。
男なのか、女なのか、判断できない。
だが、香る空気は甘く、どこか懐かしくもあった。
流星は、流れるようにその手に導かれる。
そのまま一回転、二回転。
息遣い、衣擦れの音、そしてわずかな熱だけが、全てを語っていた。
(……不思議だ。名前も、性別も、何もわからないのに──この人と踊るの、嫌じゃない)
そのときだった。
その人物が、流星の耳元にそっと指先を当てた。
そして──仮面越しに微笑む。
次の瞬間。
流星の脳裏に、はっきりと“香りの記憶”が流れ込んできた。
(これは……昼間、夢で見た“あの香り”!?)
目の前の人物は、昼の夢に現れた存在と“同じ香り”を放っていた。
つまり──
(この人が、俺に“恋文”を送った相手!?)
心臓が跳ねた。
だが、それと同時に。
(……待てよ。あの夢、“どっちの性別か”わかんなかったんだよな)
視線を向ける。だが、仮面の奥に“答え”は見えない。
香りだけが、確かに“好意”を示していた。
性別が、関係ないのかもしれない。
それがこの国の──“愛の形”なのだとしたら。
(俺は、どうすればいいんだ?)
──そのとき。
流星の背後から、殺気を感じた。
「……おい、流星。それ、誰?」
振り向けば、仮面を取ったリリアが立っていた。
顔は笑っている。だが目が笑っていない。
その隣に、アリシアが腕組みして睨みを効かせている。
ミレーユが冷ややかに一言。
「……あれ?もしかして惚れてません?」
ヴァネッサは大爆笑していた。
「やっぱイケメンだった!? 流星、そういう趣味だったのか~!?」
流星は、顔面蒼白になった。
「ち、違うって!! 俺は……俺はただ……誘われて……!」
その背後。
仮面の人物は、そっと手を口元に当てて“笑った”。
そして静かに、香りを振りまいて消えた。
まるで夢のように。
◆
「なぁ、みんな……俺、ちょっと混乱してるんだけど」
会場を後にして、流星は呟いた。
「愛ってさ……性別とか、言葉とか、なくても成立するものなのか?」
アリシアが答えた。
「この国においては、そうなのかもしれないわ」
リリアが小声で。
「でも私は、ちゃんと“言葉にしてくれる”方が嬉しいけどな」
ミレーユは照れ隠しのように言う。
「まぁ、流星が変な方向に進まなきゃ、見守るよ」
ヴァネッサは両手を広げて叫んだ。
「てことで、あたしが相手してやるから迷わないで♡」
「お、おい、やめろってばぁああああ!!」
月明かりの下、流星の悲鳴が響いた。
しかし、彼の胸には確かに残っていた。
あの仮面の微笑みと、香りの記憶。
(あれは……なんだったんだろうな)
言葉がないからこそ、伝わった“何か”。
それは、まだ名もなき恋の形だったのかもしれない──。
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