115 / 228
『言葉を持たぬ国と、性別未確定の誘惑』編
第102話『夢の中の声──誰かが語りかけてくる』
しおりを挟む
──その夜。
南方の“性別未確定王国”にある王都の宿で、常盤流星は静かに目を閉じた。
湿度を帯びた風が窓から差し込み、どこか甘やかな花の香りが寝台の上に漂う。
その香りは──まるで、どこかで嗅いだことのある、懐かしい匂いだった。
「……あのときの……」
つぶやいた刹那、流星は夢の中に落ちていった。
◇
──夢。
そこは、白いベールが何重にも揺れる幻想の空間。
淡い光が差し込み、どこからか歌のようなものが聞こえる。だが、言葉ではない。音ですらない。
まるで、**“香りが歌っている”**かのようだった。
「……流星くん……」
不意に、声が聞こえた。
その声に、流星は息を呑む。
「まさか……おまえは……」
現れたのは、一人の女性。
白いドレスの裾を揺らしながら、香りの糸のようなものをまとい、ゆっくりと歩み寄ってくる。
――彼女は、以前に出会った風俗嬢。
かつて流星が癒された、忘れられない女性の一人──**“カグヤ”**だった。
「夢に出てくるなんて、ズルいって……」
そう笑ったつもりの流星だったが、彼女は切なげに微笑み、近づいた。
「……流星くん、お願いがあるの」
「お願い?」
「あなたが今いる国……その土地に、**“声を封じる魔”**がいるの。気づいてるでしょ? この違和感……この国に流れる、無言の空気……」
流星の背中に、ぞくりとした感覚が走った。
「……まさか、言葉を封じてるのが、ただの文化じゃなくて……?」
「そう。
本当は……この国の人たちも、昔は言葉を持っていたの。けれど、“言葉を持った者たちの争い”が、大きな災厄を呼んだ。
それで、“言葉”そのものを恐れた人々が……ある魔を、この地に招いてしまったの」
「……招いた?」
カグヤは、頷いた。
「それが──“声を喰らう魔”。
正確には、“共鳴する感情”を吸い取り、依存と沈黙に閉じ込める古の存在」
「……そいつが、この国に?」
「まだ、眠ってる。けれど──あなたが来たことで、揺れ始めてる。
だって、あなたは“言葉”を信じてるから。
“風俗愛”って叫ぶくらい、真っ直ぐだから……」
夢の中で、流星は思わず苦笑した。
「……そんなに誇らしげに言うことかよ」
「誇らしくていいのよ。
あなたが、誰かの“声”になってあげて。
この国の、止まった時間を、もう一度──」
そのとき、夢の空間に亀裂が走った。
パリン、と割れたガラスのように、香りのベールが砕け散る。
「っ……!?」
カグヤが急に表情を変える。
「ダメ……もう時間……」
「カグヤ! ちょっと待って──!」
「“彼女”が目覚める前に……“塔”に行って。塔の最上層……“言葉を食べる者”が、そこにいる──!」
◇
バッ──!!
流星が飛び起きた。
額には汗。手は冷たく濡れ、布団の上で荒く呼吸を繰り返す。
隣では、リリアが目を細めて起き上がっていた。
「……今度はどんな夢? また風俗の……?」
「違う。いや、違くないけど、違う!!」
「どっちよ」
流星は真顔で息を整えながら、はっきりと言った。
「“声を食べる魔”が、この国のどこかに眠ってる。……きっと、それが全部の元凶だ」
「はあ!? ちょっと、寝ぼけてない?」
「いや……夢じゃなくて、これは“誰かの声”だった。助けを求めてた……“本物の声”だったんだ」
リリアはしばらく流星の真剣な瞳を見つめていたが──やがて頷いた。
「……わかった。じゃあ、行こう。
その“声”があった場所──塔に」
◇
夜が明け始めた王都の空に、まだ誰も知らぬ“沈黙の真実”が、ゆっくりと目覚めようとしていた。
その先に待つのは、“言葉を失った世界”と、“感情すらも無にする魔の支配”。
──だが、流星はもう迷わない。
彼の中には、叫びがある。
煩悩でも、愛でも、風俗愛でも構わない。
「誰かに届けたい」と願う、“声”がある限り。
だからこそ──この国に、本当の言葉を取り戻す。
それが、風俗を愛した男の、新たなる戦いの始まりだった。
南方の“性別未確定王国”にある王都の宿で、常盤流星は静かに目を閉じた。
湿度を帯びた風が窓から差し込み、どこか甘やかな花の香りが寝台の上に漂う。
その香りは──まるで、どこかで嗅いだことのある、懐かしい匂いだった。
「……あのときの……」
つぶやいた刹那、流星は夢の中に落ちていった。
◇
──夢。
そこは、白いベールが何重にも揺れる幻想の空間。
淡い光が差し込み、どこからか歌のようなものが聞こえる。だが、言葉ではない。音ですらない。
まるで、**“香りが歌っている”**かのようだった。
「……流星くん……」
不意に、声が聞こえた。
その声に、流星は息を呑む。
「まさか……おまえは……」
現れたのは、一人の女性。
白いドレスの裾を揺らしながら、香りの糸のようなものをまとい、ゆっくりと歩み寄ってくる。
――彼女は、以前に出会った風俗嬢。
かつて流星が癒された、忘れられない女性の一人──**“カグヤ”**だった。
「夢に出てくるなんて、ズルいって……」
そう笑ったつもりの流星だったが、彼女は切なげに微笑み、近づいた。
「……流星くん、お願いがあるの」
「お願い?」
「あなたが今いる国……その土地に、**“声を封じる魔”**がいるの。気づいてるでしょ? この違和感……この国に流れる、無言の空気……」
流星の背中に、ぞくりとした感覚が走った。
「……まさか、言葉を封じてるのが、ただの文化じゃなくて……?」
「そう。
本当は……この国の人たちも、昔は言葉を持っていたの。けれど、“言葉を持った者たちの争い”が、大きな災厄を呼んだ。
それで、“言葉”そのものを恐れた人々が……ある魔を、この地に招いてしまったの」
「……招いた?」
カグヤは、頷いた。
「それが──“声を喰らう魔”。
正確には、“共鳴する感情”を吸い取り、依存と沈黙に閉じ込める古の存在」
「……そいつが、この国に?」
「まだ、眠ってる。けれど──あなたが来たことで、揺れ始めてる。
だって、あなたは“言葉”を信じてるから。
“風俗愛”って叫ぶくらい、真っ直ぐだから……」
夢の中で、流星は思わず苦笑した。
「……そんなに誇らしげに言うことかよ」
「誇らしくていいのよ。
あなたが、誰かの“声”になってあげて。
この国の、止まった時間を、もう一度──」
そのとき、夢の空間に亀裂が走った。
パリン、と割れたガラスのように、香りのベールが砕け散る。
「っ……!?」
カグヤが急に表情を変える。
「ダメ……もう時間……」
「カグヤ! ちょっと待って──!」
「“彼女”が目覚める前に……“塔”に行って。塔の最上層……“言葉を食べる者”が、そこにいる──!」
◇
バッ──!!
流星が飛び起きた。
額には汗。手は冷たく濡れ、布団の上で荒く呼吸を繰り返す。
隣では、リリアが目を細めて起き上がっていた。
「……今度はどんな夢? また風俗の……?」
「違う。いや、違くないけど、違う!!」
「どっちよ」
流星は真顔で息を整えながら、はっきりと言った。
「“声を食べる魔”が、この国のどこかに眠ってる。……きっと、それが全部の元凶だ」
「はあ!? ちょっと、寝ぼけてない?」
「いや……夢じゃなくて、これは“誰かの声”だった。助けを求めてた……“本物の声”だったんだ」
リリアはしばらく流星の真剣な瞳を見つめていたが──やがて頷いた。
「……わかった。じゃあ、行こう。
その“声”があった場所──塔に」
◇
夜が明け始めた王都の空に、まだ誰も知らぬ“沈黙の真実”が、ゆっくりと目覚めようとしていた。
その先に待つのは、“言葉を失った世界”と、“感情すらも無にする魔の支配”。
──だが、流星はもう迷わない。
彼の中には、叫びがある。
煩悩でも、愛でも、風俗愛でも構わない。
「誰かに届けたい」と願う、“声”がある限り。
だからこそ──この国に、本当の言葉を取り戻す。
それが、風俗を愛した男の、新たなる戦いの始まりだった。
10
あなたにおすすめの小説
レベルアップは異世界がおすすめ!
まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。
そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
書道が『神級』に昇格!?女神の失敗で異世界転移して竜皇女と商売してたら勇者!聖女!魔王!「次々と現れるので対応してたら世界を救ってました」
銀塊 メウ
ファンタジー
書道が大好き(強制)なごくごく普通の
一般高校生真田蒼字、しかし実際は家の
関係で、幽霊や妖怪を倒す陰陽師的な仕事
を裏でしていた。ある日のこと学校を
出たら目の前は薄暗い檻の中なんじゃ
こりゃーと思っていると、女神(駄)が
現れ異世界に転移されていた。魔王を
倒してほしんですか?いえ違います。
失敗しちゃった。テヘ!ふざけんな!
さっさと元の世界に帰せ‼
これは運悪く異世界に飛ばされた青年が
仲間のリル、レイチェルと楽しくほのぼの
と商売をして暮らしているところで、
様々な事件に巻き込まれながらも、この
世界に来て手に入れたスキル『書道神級』
の力で無双し敵をバッタバッタと倒し
解決していく中で、魔王と勇者達の戦いに
巻き込まれ時にはカッコよく(モテる)、
時には面白く敵を倒して(笑える)いつの
間にか世界を救う話です。
異世界へ転生した俺が最強のコピペ野郎になる件
おおりく
ファンタジー
高校生の桜木 悠人は、不慮の事故で命を落とすが、神のミスにより異世界『テラ・ルクス』で第二の生を得る。彼に与えられたスキルは、他者の能力を模倣する『コピーキャット』。
最初は最弱だった悠人だが、光・闇・炎・氷の属性と、防御・知識・物理の能力を次々とコピーし、誰も成し得なかった多重複合スキルを使いこなす究極のチートへと進化する!
しかし、その異常な強さは、悠人を巡る三人の美少女たちの激しい争奪戦を引き起こすことになる。
スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する
カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、
23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。
急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。
完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。
そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。
最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。
すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。
どうやら本当にレベルアップしている模様。
「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」
最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。
他サイトにも掲載しています。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
平明神
ファンタジー
ユーゴ・タカトー。
それは、女神の「推し」になった男。
見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
唯一無二のマスタースキルで攻略する異世界譚~17歳に若返った俺が辿るもう一つの人生~
専攻有理
ファンタジー
31歳の事務員、椿井翼はある日信号無視の車に轢かれ、目が覚めると17歳の頃の肉体に戻った状態で異世界にいた。
ただ、導いてくれる女神などは現れず、なぜ自分が異世界にいるのかその理由もわからぬまま椿井はツヴァイという名前で異世界で出会った少女達と共にモンスター退治を始めることになった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる