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《風俗を巡る星の海──北の精霊郷と、封じられた記憶編》
第124話『眠れる花の館──少女たちの記憶が消える夜』
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「……また、です」
夜明け前、セレイナ村の医療小屋にて。
若い女性の巫女見習いが震える指で記録帳をめくりながら、ミレーユたちに報告を始めた。
「今夜も六人──すべて、女性です。夢遊状態で、同じ方向へ歩いていったと報告されました。全員、“花の館”の方角です」
「花の館……?」
「かつて“香記の療養所”として使われていた施設です。今は閉鎖されているはずですが……」
「……行ってみる価値はあるな」
流星は立ち上がった。腰に下げた剣の鍔が、緊張に応えるように鳴る。
「今までの流れからして、そこが“香源”だ。強制再教育の拠点である可能性が高い」
「再教育……」
アリシアの眉がひそまる。
「つまり、“自分にとって都合のいい記憶”に、書き換える施設ってこと?」
「それだけじゃない」
ミレーユがゆっくりと首を振る。
「“快楽の記憶”って、強い。それゆえに脆い。誰かに“この記憶こそが幸福だ”と刷り込まれたら、私たちはそれを疑うことすらできなくなる」
「香で……人の“悦び”を、上書きするってことか……」
リリアが歯を食いしばった。
「そんなの……風俗の名を汚してるだろ」
「風俗は、選ぶものだ。誰かに“正解”を決められて、通うもんじゃない」
流星の声は、怒りよりも冷たかった。
「“癒し”ってのは、押し付けるもんじゃねえ」
*
夜が更け、村が再び眠りに落ちる頃。
リリア、ミレーユ、アリシア、ヴァネッサ、そして流星の五人は、旧市街の奥深く、“花の館”と呼ばれる施設へと足を踏み入れた。
薄桃色の花が咲き乱れる庭園。だがその美しさの裏には、どこか人工的な匂いが漂っていた。
「この花──《セレナフローラ》。香術院でも実験植物として使われていた。“快楽記憶を誘発しやすくする”揮発性精油を含んでいるわ」
ミレーユが花に触れながら言う。
「つまり、“ここは気持ちいい場所だ”って、無意識に刷り込むための庭ってことか……」
館の扉を開けた瞬間──空気が変わった。
甘く、柔らかく、誘うような香りが肺の奥まで入り込んでくる。
「……ッ!」
ヴァネッサが思わず鼻を押さえた。
「やばい……一瞬、“気持ちよくなってもいいかも”って思っちまった……」
「防香魔法、展開します!」
アリシアが急ぎ、全員に薄い結界を張る。だが、完全ではない。香りは、記憶と同様、心の隙間から忍び込んでくる。
館の中は──まるで高級な癒しの館のように整備されていた。
柔らかい照明、揺れるカーテン、淡い音楽──そして、その奥にある、白く静かな個室の列。
「見て……!」
リリアが指差す先に、夢遊状態の少女たちが、ゆっくりと個室の中へと吸い込まれていく。
まるで、導かれるように。
「……この部屋、“快楽記憶再教育装置”が組み込まれてる」
ミレーユが確認する。
「ベッドに横たわると、自動的に香が噴出し、“過去の幸福体験”を再構築するように仕組まれてる……ただし、その内容は“調整済み”よ」
「つまり……“都合のいい記憶”に書き換えられるってことか」
流星の目が険しくなった。
個室のひとつへ踏み込むと、香に包まれて横たわる少女がいた。
その顔には、穏やかな笑み。
「この子、涙……」
リリアが少女の頬に流れる涙を指摘する。
「たぶん……本当は、ここに来たくなかったんだ。だけど、香で無理やり“ここに来た自分は幸福”だと書き換えられてる」
「これが……癒しかよ」
流星の拳が震えた。
「……風俗ってのは、記憶を塗り替えるための場所じゃねぇ。俺たちは、思い出すために行くんだ。あの夜の温もりを、あの笑顔を、もう一度確かめるために」
「流星……」
ミレーユが小さく呟いた。
「記憶は、触れちゃいけない神聖なものじゃない。だけど、それを“他人が選ぶ”のは違う。癒しってのは、自分で“選ぶ自由”の上にしか、成り立たない」
その言葉に、仲間たちは静かに頷いた。
*
流星はベッドに眠る少女の頬にそっと触れ、香を打ち消すための精油を注ぐ。
「戻れ。お前の記憶に──お前の足で」
微かに、少女の瞼が震え、次の瞬間、かすかに目を開いた。
「……ここは……?」
「おかえり。もう、大丈夫だ」
流星の言葉に、少女の目からまた一筋、涙が零れた。
*
仮面の女は、館の奥の観察室でその様子を見ていた。
「やはり……“選ぶ者”か。ならば──次は、“消えた記憶”を与えて差し上げましょう」
部屋の奥に並ぶ“香の記録結晶”。
そのなかには、まだ誰も知らぬ──ミレーユの過去、“禁じられた施術”の記録も眠っていた。
夜明け前、セレイナ村の医療小屋にて。
若い女性の巫女見習いが震える指で記録帳をめくりながら、ミレーユたちに報告を始めた。
「今夜も六人──すべて、女性です。夢遊状態で、同じ方向へ歩いていったと報告されました。全員、“花の館”の方角です」
「花の館……?」
「かつて“香記の療養所”として使われていた施設です。今は閉鎖されているはずですが……」
「……行ってみる価値はあるな」
流星は立ち上がった。腰に下げた剣の鍔が、緊張に応えるように鳴る。
「今までの流れからして、そこが“香源”だ。強制再教育の拠点である可能性が高い」
「再教育……」
アリシアの眉がひそまる。
「つまり、“自分にとって都合のいい記憶”に、書き換える施設ってこと?」
「それだけじゃない」
ミレーユがゆっくりと首を振る。
「“快楽の記憶”って、強い。それゆえに脆い。誰かに“この記憶こそが幸福だ”と刷り込まれたら、私たちはそれを疑うことすらできなくなる」
「香で……人の“悦び”を、上書きするってことか……」
リリアが歯を食いしばった。
「そんなの……風俗の名を汚してるだろ」
「風俗は、選ぶものだ。誰かに“正解”を決められて、通うもんじゃない」
流星の声は、怒りよりも冷たかった。
「“癒し”ってのは、押し付けるもんじゃねえ」
*
夜が更け、村が再び眠りに落ちる頃。
リリア、ミレーユ、アリシア、ヴァネッサ、そして流星の五人は、旧市街の奥深く、“花の館”と呼ばれる施設へと足を踏み入れた。
薄桃色の花が咲き乱れる庭園。だがその美しさの裏には、どこか人工的な匂いが漂っていた。
「この花──《セレナフローラ》。香術院でも実験植物として使われていた。“快楽記憶を誘発しやすくする”揮発性精油を含んでいるわ」
ミレーユが花に触れながら言う。
「つまり、“ここは気持ちいい場所だ”って、無意識に刷り込むための庭ってことか……」
館の扉を開けた瞬間──空気が変わった。
甘く、柔らかく、誘うような香りが肺の奥まで入り込んでくる。
「……ッ!」
ヴァネッサが思わず鼻を押さえた。
「やばい……一瞬、“気持ちよくなってもいいかも”って思っちまった……」
「防香魔法、展開します!」
アリシアが急ぎ、全員に薄い結界を張る。だが、完全ではない。香りは、記憶と同様、心の隙間から忍び込んでくる。
館の中は──まるで高級な癒しの館のように整備されていた。
柔らかい照明、揺れるカーテン、淡い音楽──そして、その奥にある、白く静かな個室の列。
「見て……!」
リリアが指差す先に、夢遊状態の少女たちが、ゆっくりと個室の中へと吸い込まれていく。
まるで、導かれるように。
「……この部屋、“快楽記憶再教育装置”が組み込まれてる」
ミレーユが確認する。
「ベッドに横たわると、自動的に香が噴出し、“過去の幸福体験”を再構築するように仕組まれてる……ただし、その内容は“調整済み”よ」
「つまり……“都合のいい記憶”に書き換えられるってことか」
流星の目が険しくなった。
個室のひとつへ踏み込むと、香に包まれて横たわる少女がいた。
その顔には、穏やかな笑み。
「この子、涙……」
リリアが少女の頬に流れる涙を指摘する。
「たぶん……本当は、ここに来たくなかったんだ。だけど、香で無理やり“ここに来た自分は幸福”だと書き換えられてる」
「これが……癒しかよ」
流星の拳が震えた。
「……風俗ってのは、記憶を塗り替えるための場所じゃねぇ。俺たちは、思い出すために行くんだ。あの夜の温もりを、あの笑顔を、もう一度確かめるために」
「流星……」
ミレーユが小さく呟いた。
「記憶は、触れちゃいけない神聖なものじゃない。だけど、それを“他人が選ぶ”のは違う。癒しってのは、自分で“選ぶ自由”の上にしか、成り立たない」
その言葉に、仲間たちは静かに頷いた。
*
流星はベッドに眠る少女の頬にそっと触れ、香を打ち消すための精油を注ぐ。
「戻れ。お前の記憶に──お前の足で」
微かに、少女の瞼が震え、次の瞬間、かすかに目を開いた。
「……ここは……?」
「おかえり。もう、大丈夫だ」
流星の言葉に、少女の目からまた一筋、涙が零れた。
*
仮面の女は、館の奥の観察室でその様子を見ていた。
「やはり……“選ぶ者”か。ならば──次は、“消えた記憶”を与えて差し上げましょう」
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