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《風俗を巡る星の海──北の精霊郷と、封じられた記憶編》
第125話『対決──アストレア、運命に抗う』
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夜が明けきらぬセレイナの空に、静かなざわめきが広がっていた。
村人たちは、まるで夢から醒めたかのように、互いの顔を見合わせては不安げに首を振っている。
「昨夜……私は、あの館にいた……気がする……けど……」
「誰と話して、何をされたのか……何も思い出せないの」
曖昧な記憶と、わずかに残る甘い香り──
それが、昨夜の“再教育”の証だった。
「……このまま放置すれば、村全体が“操られた幸福”に染まっていく」
ミレーユの言葉に、流星は深く頷いた。
「記憶ってのは、忘れたいこともあるけど、忘れちゃいけないこともあるんだよな」
「だからこそ、誰かに決めさせちゃダメなんだよ」
そのとき、場を裂くように──高らかな祈祷の声が響いた。
「皆、聞きなさい。我らの精霊に選ばれし巫女──アリューシア様のご降臨です!」
神殿の巫女たちが白い衣を翻し、村の中心にある《祈雪の庭》へと進み出る。その後ろに、女王巫女・アリューシアの姿があった。
彼女の白銀の髪は朝の光に溶け、瞳は氷のように澄んでいる。
「民よ──昨夜の混乱は、異端者の仕業によるものです」
静かに、しかし全体に響く声。
「精霊が望まぬ快楽を振りまく者。それに与する記憶術者たち。そして──運命に抗い、勝手な癒しを謳う者たち」
その視線が、流星たちの一行へと向けられる。
「巫女アリューシア。あなたの言葉は、過ちです」
澄んだ声が、それを遮った。
静かに現れたのは、星巫女・アストレア。
透き通るような群青の衣、髪に飾った星の髪飾りがきらめく。
「星は語りました。癒しとは選ばれるものだと──だが、私はそれを拒否します」
アリューシアの表情がわずかに揺れた。
「拒否? 星の巫女として、それは冒涜です」
「私はもう、“選ばれる未来”を受け入れる巫女じゃない」
アストレアの声は、静かで強かった。
「運命が“快楽は罪だ”と言ったのなら、私はその運命に逆らう。なぜなら──“誰が決めた?”という問いを、ずっと胸に抱えていたから」
「選ばれた快楽以外は罪です」
アリューシアが、あくまで冷たく断言する。
「精霊は、人の心を蝕む欲望を“穢れ”と定めました。“聖なる記憶”以外の感情は、調和を乱す災厄なのです」
「ならば──」
アストレアは一歩前に出る。
「誰が、“聖なる”と決めたのです? 星? 巫女? 精霊? 神? それとも、あなた自身?」
「……!」
「私は──私自身の心で選ぶ。私は、私のために癒されたい。私のために、誰かに触れられたい。それが、罪であるはずがない」
村人たちが、ざわめいた。
まるで、閉ざされた冬に春風が吹き込んだような、そんな動揺。
「あなたは……“星の巫女”でありながら……導きに背くのですか?」
「はい。私は導かれません。私は、選ぶ者になります」
その瞬間、アリューシアの周囲に氷の霊気が走る。
「ならば、あなたを“罪人”として裁く。それが、セレイナの掟!」
白銀の結界が、空中に展開された。
同時に、アストレアも静かに祈りを捧げる。
「星の記憶、解放せよ──《オリジン・セレスティア》」
空に輝く星が一閃。二つの力が、村の中心で衝突した。
*
「これは……!」
村人たちは光に包まれ、一瞬、深い記憶の世界へと引き込まれる。
──幼い日の笑顔
──愛した人と過ごした一夜
──母の手の温もり
──忘れたはずの涙
それらが次々と脳裏をよぎる。
「これは……俺の記憶だ……!」
「なにこれ……胸が……熱い……!」
光が消えたとき、全員が静かに立ち尽くしていた。
アリューシアは膝をつき、震えていた。
「……私も……あの夜……名前も知らないあの人の手のひらが、あたたかくて……それを思い出した瞬間、涙が止まらなかった……なのに、私は……それを“罪”だと……」
「それは罪じゃない」
アストレアが、ゆっくりと彼女に歩み寄る。
「それは、“あなたの癒し”です」
アリューシアの目から、ひとすじの涙が落ちた。
その涙が、雪に落ちて──ゆっくりと、春の香りを生む。
「……私は、星を見誤っていたのですね……」
「いいえ。星は道を示すだけ。歩くのは、あなたの足です」
アストレアは、そう微笑んだ。
*
後日──
セレイナ神殿は、“記憶と癒し”に関する教義を見直す声明を発表。
“快楽の記憶”は罪ではなく、“自己を理解する第一歩”であると再定義されることとなった。
アリューシアは巫女長を退き、自ら“巡礼者”として村を旅立ったという。
──そして、流星たちは次なる調査へ。
地下水脈のさらに奥、《香の記録炉》へと進む準備を整える。
「……さて、そろそろクライマックスか?」
「ええ。香りの記憶を巡る旅も、そろそろ“本丸”に辿り着きそうね」
「じゃあその前に、一発──癒されてから行くか?」
「バッカじゃないの!?」
リリアの拳が飛ぶ。
その匂いは、いつもよりほんの少しだけ、あたたかかった。
村人たちは、まるで夢から醒めたかのように、互いの顔を見合わせては不安げに首を振っている。
「昨夜……私は、あの館にいた……気がする……けど……」
「誰と話して、何をされたのか……何も思い出せないの」
曖昧な記憶と、わずかに残る甘い香り──
それが、昨夜の“再教育”の証だった。
「……このまま放置すれば、村全体が“操られた幸福”に染まっていく」
ミレーユの言葉に、流星は深く頷いた。
「記憶ってのは、忘れたいこともあるけど、忘れちゃいけないこともあるんだよな」
「だからこそ、誰かに決めさせちゃダメなんだよ」
そのとき、場を裂くように──高らかな祈祷の声が響いた。
「皆、聞きなさい。我らの精霊に選ばれし巫女──アリューシア様のご降臨です!」
神殿の巫女たちが白い衣を翻し、村の中心にある《祈雪の庭》へと進み出る。その後ろに、女王巫女・アリューシアの姿があった。
彼女の白銀の髪は朝の光に溶け、瞳は氷のように澄んでいる。
「民よ──昨夜の混乱は、異端者の仕業によるものです」
静かに、しかし全体に響く声。
「精霊が望まぬ快楽を振りまく者。それに与する記憶術者たち。そして──運命に抗い、勝手な癒しを謳う者たち」
その視線が、流星たちの一行へと向けられる。
「巫女アリューシア。あなたの言葉は、過ちです」
澄んだ声が、それを遮った。
静かに現れたのは、星巫女・アストレア。
透き通るような群青の衣、髪に飾った星の髪飾りがきらめく。
「星は語りました。癒しとは選ばれるものだと──だが、私はそれを拒否します」
アリューシアの表情がわずかに揺れた。
「拒否? 星の巫女として、それは冒涜です」
「私はもう、“選ばれる未来”を受け入れる巫女じゃない」
アストレアの声は、静かで強かった。
「運命が“快楽は罪だ”と言ったのなら、私はその運命に逆らう。なぜなら──“誰が決めた?”という問いを、ずっと胸に抱えていたから」
「選ばれた快楽以外は罪です」
アリューシアが、あくまで冷たく断言する。
「精霊は、人の心を蝕む欲望を“穢れ”と定めました。“聖なる記憶”以外の感情は、調和を乱す災厄なのです」
「ならば──」
アストレアは一歩前に出る。
「誰が、“聖なる”と決めたのです? 星? 巫女? 精霊? 神? それとも、あなた自身?」
「……!」
「私は──私自身の心で選ぶ。私は、私のために癒されたい。私のために、誰かに触れられたい。それが、罪であるはずがない」
村人たちが、ざわめいた。
まるで、閉ざされた冬に春風が吹き込んだような、そんな動揺。
「あなたは……“星の巫女”でありながら……導きに背くのですか?」
「はい。私は導かれません。私は、選ぶ者になります」
その瞬間、アリューシアの周囲に氷の霊気が走る。
「ならば、あなたを“罪人”として裁く。それが、セレイナの掟!」
白銀の結界が、空中に展開された。
同時に、アストレアも静かに祈りを捧げる。
「星の記憶、解放せよ──《オリジン・セレスティア》」
空に輝く星が一閃。二つの力が、村の中心で衝突した。
*
「これは……!」
村人たちは光に包まれ、一瞬、深い記憶の世界へと引き込まれる。
──幼い日の笑顔
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──母の手の温もり
──忘れたはずの涙
それらが次々と脳裏をよぎる。
「これは……俺の記憶だ……!」
「なにこれ……胸が……熱い……!」
光が消えたとき、全員が静かに立ち尽くしていた。
アリューシアは膝をつき、震えていた。
「……私も……あの夜……名前も知らないあの人の手のひらが、あたたかくて……それを思い出した瞬間、涙が止まらなかった……なのに、私は……それを“罪”だと……」
「それは罪じゃない」
アストレアが、ゆっくりと彼女に歩み寄る。
「それは、“あなたの癒し”です」
アリューシアの目から、ひとすじの涙が落ちた。
その涙が、雪に落ちて──ゆっくりと、春の香りを生む。
「……私は、星を見誤っていたのですね……」
「いいえ。星は道を示すだけ。歩くのは、あなたの足です」
アストレアは、そう微笑んだ。
*
後日──
セレイナ神殿は、“記憶と癒し”に関する教義を見直す声明を発表。
“快楽の記憶”は罪ではなく、“自己を理解する第一歩”であると再定義されることとなった。
アリューシアは巫女長を退き、自ら“巡礼者”として村を旅立ったという。
──そして、流星たちは次なる調査へ。
地下水脈のさらに奥、《香の記録炉》へと進む準備を整える。
「……さて、そろそろクライマックスか?」
「ええ。香りの記憶を巡る旅も、そろそろ“本丸”に辿り着きそうね」
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