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《風俗を巡る星の海──北の精霊郷と、封じられた記憶編》
第126話『真実の香、開かれる封印』
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それは──
雪と香りが交差する、静謐なる地下。
《セレイナ禁香区》第三層、通称“白封の回廊”。
流星たちは、神殿に伝わる最深の封印域へと足を踏み入れていた。
薄く光る花弁状の石板群。風もないのに揺れているように感じるのは、香が“記憶”を揺らしているからだ。
アストレアの導きにより、神殿の祭壇が再定義された今、ここもまた封印解除が認可された。
しかし誰も、その真の意味を知らなかった。
いや、知っていても、誰も見ようとしなかった──
その中心に据えられていたのは、古代香術文明時代の遺構。
石製の香炉台座。周囲に浮かぶ“記憶封印結晶”。そして……
「……これが、“精霊風俗術”の記録炉か」
ミレーユが息を呑む。彼女の表情は、いつになく硬い。
「ここにある香は……“癒し”ではなく、“記憶と感情の融合”を目的とした術式。今の私たちが扱う香術とは、系統そのものが違うの」
「……なら、何のためにこれを?」
流星の問いに、ミレーユは小さく言った。
「過去に──“香で世界を救った者”がいたのよ。私は、ずっとそれを信じてた。誰にも認められなかったけど」
*
炉の中心に、ひとつだけ異質な結晶があった。
それは、銀色の帯に包まれた、球状の香結晶。
「これは……“名記香”──“名前を記す香”」
アリシアが驚きを隠さずに呟く。
「古代の伝承にある。人の想いを“香”として記録し、永遠に残す禁術。……この香を使えば、死者の感情さえ、再現できる」
「封印を……解くか?」
「解くわ」
ミレーユの声ははっきりしていた。
「私は……真実が知りたい。祖先のことも、私が“香術師”である意味も」
流星は頷き、香炉の封を剣の柄で叩き割る。
途端に、淡く輝く銀の香気が室内に立ちこめ──
──記憶が、空間を満たしていく。
*
それは、戦火の中だった。
燃える城壁。崩れ落ちた兵士たちの上を、香の精霊が舞っていた。
その中心に立っていたのは、一人の女性。
銀髪に黒衣、腰には香炉、手には羽扇。だがその瞳は、誰よりも力強く燃えていた。
《──記録開始:シルヴァ=エトワール》
「私の名はシルヴァ。香術士であり、癒しの妓であり、民の一人」
「この国は、戦によって痛みを抱えている。ならば──私は快楽をもって、癒し、止めてみせる」
「武器を持たず、身体を持って、心を抱きしめる。それを、“下賤”と呼ぶ者もいた。だが──私は誇りを捨てない」
映像の中で、シルヴァは敵兵の陣中に単身乗り込み、香を焚いた。
男たちは、一瞬にして武器を捨て、膝をつく。
戦意を喪失したのではない。“魂の痛み”が洗われたのだ。
「香に抱かれ、記憶に導かれ、人は“もう戦いたくない”と思う。それこそが、癒しの最前線。私は、“風俗”の名の下に──世界を止める」
──記録、終了。
香は、静かに沈黙した。
*
「……すごい。これが……“戦を止めた風俗術”」
リリアが呆然と呟いた。
「……この人が……私の祖先?」
ミレーユの手が震えていた。
「私……信じられない。香で戦争を止めたなんて……ずっと、笑われてきたのに……!」
「笑わせときゃいいさ」
流星は笑って肩を叩いた。
「本当のことってのは、最初は誰にも信じられないもんだ。でも、それを信じたヤツがいる。お前が、そうだった」
ミレーユの瞳に、涙が浮かんだ。
「ありがとう、流星……」
アリシアが結晶を手に取る。
「……これは、公にすべきね。風俗という文化の、“起源”として」
「うん。これは……もう、“恥じる記録”じゃない」
「祖先が残した誇りよ」
その瞬間、香炉の奥で淡く光る第二の結晶があった。
それには、こう書かれていた──
《第二記録:記憶を操る“偽りの香”について》
流星たちは顔を見合わせた。
「これは……?」
「まだ“誰か”が、真逆の目的で香術を使っていた……?」
「もしかして……《仮面の者》の記録……?」
空気がまたひとつ、凍る。
──真の敵が、その香の奥に姿を現そうとしていた。
雪と香りが交差する、静謐なる地下。
《セレイナ禁香区》第三層、通称“白封の回廊”。
流星たちは、神殿に伝わる最深の封印域へと足を踏み入れていた。
薄く光る花弁状の石板群。風もないのに揺れているように感じるのは、香が“記憶”を揺らしているからだ。
アストレアの導きにより、神殿の祭壇が再定義された今、ここもまた封印解除が認可された。
しかし誰も、その真の意味を知らなかった。
いや、知っていても、誰も見ようとしなかった──
その中心に据えられていたのは、古代香術文明時代の遺構。
石製の香炉台座。周囲に浮かぶ“記憶封印結晶”。そして……
「……これが、“精霊風俗術”の記録炉か」
ミレーユが息を呑む。彼女の表情は、いつになく硬い。
「ここにある香は……“癒し”ではなく、“記憶と感情の融合”を目的とした術式。今の私たちが扱う香術とは、系統そのものが違うの」
「……なら、何のためにこれを?」
流星の問いに、ミレーユは小さく言った。
「過去に──“香で世界を救った者”がいたのよ。私は、ずっとそれを信じてた。誰にも認められなかったけど」
*
炉の中心に、ひとつだけ異質な結晶があった。
それは、銀色の帯に包まれた、球状の香結晶。
「これは……“名記香”──“名前を記す香”」
アリシアが驚きを隠さずに呟く。
「古代の伝承にある。人の想いを“香”として記録し、永遠に残す禁術。……この香を使えば、死者の感情さえ、再現できる」
「封印を……解くか?」
「解くわ」
ミレーユの声ははっきりしていた。
「私は……真実が知りたい。祖先のことも、私が“香術師”である意味も」
流星は頷き、香炉の封を剣の柄で叩き割る。
途端に、淡く輝く銀の香気が室内に立ちこめ──
──記憶が、空間を満たしていく。
*
それは、戦火の中だった。
燃える城壁。崩れ落ちた兵士たちの上を、香の精霊が舞っていた。
その中心に立っていたのは、一人の女性。
銀髪に黒衣、腰には香炉、手には羽扇。だがその瞳は、誰よりも力強く燃えていた。
《──記録開始:シルヴァ=エトワール》
「私の名はシルヴァ。香術士であり、癒しの妓であり、民の一人」
「この国は、戦によって痛みを抱えている。ならば──私は快楽をもって、癒し、止めてみせる」
「武器を持たず、身体を持って、心を抱きしめる。それを、“下賤”と呼ぶ者もいた。だが──私は誇りを捨てない」
映像の中で、シルヴァは敵兵の陣中に単身乗り込み、香を焚いた。
男たちは、一瞬にして武器を捨て、膝をつく。
戦意を喪失したのではない。“魂の痛み”が洗われたのだ。
「香に抱かれ、記憶に導かれ、人は“もう戦いたくない”と思う。それこそが、癒しの最前線。私は、“風俗”の名の下に──世界を止める」
──記録、終了。
香は、静かに沈黙した。
*
「……すごい。これが……“戦を止めた風俗術”」
リリアが呆然と呟いた。
「……この人が……私の祖先?」
ミレーユの手が震えていた。
「私……信じられない。香で戦争を止めたなんて……ずっと、笑われてきたのに……!」
「笑わせときゃいいさ」
流星は笑って肩を叩いた。
「本当のことってのは、最初は誰にも信じられないもんだ。でも、それを信じたヤツがいる。お前が、そうだった」
ミレーユの瞳に、涙が浮かんだ。
「ありがとう、流星……」
アリシアが結晶を手に取る。
「……これは、公にすべきね。風俗という文化の、“起源”として」
「うん。これは……もう、“恥じる記録”じゃない」
「祖先が残した誇りよ」
その瞬間、香炉の奥で淡く光る第二の結晶があった。
それには、こう書かれていた──
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流星たちは顔を見合わせた。
「これは……?」
「まだ“誰か”が、真逆の目的で香術を使っていた……?」
「もしかして……《仮面の者》の記録……?」
空気がまたひとつ、凍る。
──真の敵が、その香の奥に姿を現そうとしていた。
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