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《風俗を巡る星の海──北の精霊郷と、封じられた記憶編》
第127話『記憶は残り香となって──風は、北より吹く』
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その日、セレイナの空には珍しく雲の切れ間が見えていた。
凍てつく冬の合間に、柔らかな風が吹き抜ける。
雪の大地を撫でるような、優しい風。
それはまるで、かつて封じられた香が、ようやく語るべき言葉を得たようだった。
*
「……記録はすべて、確認できたわ」
アリシアが報告を終え、香炉の記録結晶群を抱えて立ち上がる。
「シルヴァ=エトワールの行動は、明確に“風俗術”を用いた平和活動だった。快楽は戦意を削ぎ、同時に精神を癒す手段になっていた」
「彼女は、慰み者じゃない。誇りを持った“記録の担い手”だったのよ」
ミレーユの声には、もはや迷いはなかった。
「そして、それを再び“穢れ”として封印したのが……この村の、かつての神殿だった」
流星は目を閉じ、静かに息を吸った。
雪の香りと、古代の香が混ざるような、重くもあたたかな空気。
「……じゃあ、終わらせよう。ここに積もった“嘘の香り”を、全部拭い去るんだ」
*
その日の午後。
村の中心、《雪精霊の広場》にすべての住民が集められた。
流星たちは、その壇上に立ち──ミレーユが、すべてを語った。
「皆さん、思い出してほしいのです。“癒し”とは何だったのか。“香”とは、何を伝えてくれるものだったのか」
彼女は、“快楽”と“記憶”が結びつくメカニズムを解説し、そして古代の記録を明かした。
「かつて、精霊の名のもとに、“癒し”は人を救っていました」
「しかし、それが“穢れ”とされ、封じられた理由は──政治的な思惑と、誤解でした」
「快楽を拒絶すれば清浄なのではありません。人は、癒されなければ生きられない。だからこそ、快楽と癒しは“断絶”すべきではないのです」
村人たちは最初、言葉もなく彼女の話を聞いていた。
だが──
「……思い出しました。私も、若いころ……あの“雪見亭”で、亡くなった夫の記憶を思い出せたことがある……」
「おれ……戦争で腕を失ったとき、あの館で、女の子に“腕がなくても立派だよ”って言われて……あれは“金で買った言葉”じゃなかった……」
「私も……“また来てくれて嬉しい”って、笑顔で言ってくれた。あの笑顔を……私は今でも忘れられない」
少しずつ、少しずつ──人々の中から“記憶”が蘇っていく。
それは、“封じられた香”が残していた“残り香”。
雪が記憶を覆っても、風がそれをめくってくれる。
流星は、壇上に立った。
「……俺は、“癒しのために風俗に通う”っていう、ただの煩悩まみれの男だ」
どっと、場に小さな笑いが起きる。
「だけどな──俺は信じてる。風俗ってのは、“戦いを止める力”になるって」
その言葉に、村の空気がピンと張った。
「心が戦ってるとき、人は癒されるべきだ。誰にも言えない傷を抱えてる奴が、誰かに触れて、“おかえり”って言ってもらえるだけで、世界は変わる」
「それは、弱さじゃない。生きていくための、たった一つの灯りだ」
風が、広場を吹き抜けた。
ミレーユが、そっと結晶のひとつを開く。
そこには、あの英雄シルヴァが、最後に残した香が記録されていた。
──“この香が、いつか誰かに届いてくれたなら。私はもう、癒されたのです”──
その香がふわりと舞い、村全体に広がった。
涙を流す者。笑顔を浮かべる者。
そして、静かに目を閉じ、頷く者。
香は、過去と現在を結び、記憶と未来をつなげていった。
*
その夜。
アストレアが、星を見ながら呟いた。
「……星は、記憶のように淡くて、でも確かで。香りと似てるわね」
「そうか?」
「あなたの歩いた場所には、いつも“匂い”が残ってるのよ。……煩悩くさいけど」
「はは、それ褒めてんのか?」
「ふふ……どうでしょう?」
ふたりの視線の先には、灯のついた“再建された癒しの館”の姿があった。
今度は誰の手によっても封じられず、誰の心も否定されることのない、“真の癒し”の館として。
流星は、風の香に顔を上げて、最後に一言つぶやいた。
「……俺はまだまだ、癒され足りねぇからな。これからも、通うぜ」
「はいはい、煩悩の勇者さま」
雪は止み、風は東へ。
記憶を残したまま、新たな物語が、またひとつ始まろうとしていた──
凍てつく冬の合間に、柔らかな風が吹き抜ける。
雪の大地を撫でるような、優しい風。
それはまるで、かつて封じられた香が、ようやく語るべき言葉を得たようだった。
*
「……記録はすべて、確認できたわ」
アリシアが報告を終え、香炉の記録結晶群を抱えて立ち上がる。
「シルヴァ=エトワールの行動は、明確に“風俗術”を用いた平和活動だった。快楽は戦意を削ぎ、同時に精神を癒す手段になっていた」
「彼女は、慰み者じゃない。誇りを持った“記録の担い手”だったのよ」
ミレーユの声には、もはや迷いはなかった。
「そして、それを再び“穢れ”として封印したのが……この村の、かつての神殿だった」
流星は目を閉じ、静かに息を吸った。
雪の香りと、古代の香が混ざるような、重くもあたたかな空気。
「……じゃあ、終わらせよう。ここに積もった“嘘の香り”を、全部拭い去るんだ」
*
その日の午後。
村の中心、《雪精霊の広場》にすべての住民が集められた。
流星たちは、その壇上に立ち──ミレーユが、すべてを語った。
「皆さん、思い出してほしいのです。“癒し”とは何だったのか。“香”とは、何を伝えてくれるものだったのか」
彼女は、“快楽”と“記憶”が結びつくメカニズムを解説し、そして古代の記録を明かした。
「かつて、精霊の名のもとに、“癒し”は人を救っていました」
「しかし、それが“穢れ”とされ、封じられた理由は──政治的な思惑と、誤解でした」
「快楽を拒絶すれば清浄なのではありません。人は、癒されなければ生きられない。だからこそ、快楽と癒しは“断絶”すべきではないのです」
村人たちは最初、言葉もなく彼女の話を聞いていた。
だが──
「……思い出しました。私も、若いころ……あの“雪見亭”で、亡くなった夫の記憶を思い出せたことがある……」
「おれ……戦争で腕を失ったとき、あの館で、女の子に“腕がなくても立派だよ”って言われて……あれは“金で買った言葉”じゃなかった……」
「私も……“また来てくれて嬉しい”って、笑顔で言ってくれた。あの笑顔を……私は今でも忘れられない」
少しずつ、少しずつ──人々の中から“記憶”が蘇っていく。
それは、“封じられた香”が残していた“残り香”。
雪が記憶を覆っても、風がそれをめくってくれる。
流星は、壇上に立った。
「……俺は、“癒しのために風俗に通う”っていう、ただの煩悩まみれの男だ」
どっと、場に小さな笑いが起きる。
「だけどな──俺は信じてる。風俗ってのは、“戦いを止める力”になるって」
その言葉に、村の空気がピンと張った。
「心が戦ってるとき、人は癒されるべきだ。誰にも言えない傷を抱えてる奴が、誰かに触れて、“おかえり”って言ってもらえるだけで、世界は変わる」
「それは、弱さじゃない。生きていくための、たった一つの灯りだ」
風が、広場を吹き抜けた。
ミレーユが、そっと結晶のひとつを開く。
そこには、あの英雄シルヴァが、最後に残した香が記録されていた。
──“この香が、いつか誰かに届いてくれたなら。私はもう、癒されたのです”──
その香がふわりと舞い、村全体に広がった。
涙を流す者。笑顔を浮かべる者。
そして、静かに目を閉じ、頷く者。
香は、過去と現在を結び、記憶と未来をつなげていった。
*
その夜。
アストレアが、星を見ながら呟いた。
「……星は、記憶のように淡くて、でも確かで。香りと似てるわね」
「そうか?」
「あなたの歩いた場所には、いつも“匂い”が残ってるのよ。……煩悩くさいけど」
「はは、それ褒めてんのか?」
「ふふ……どうでしょう?」
ふたりの視線の先には、灯のついた“再建された癒しの館”の姿があった。
今度は誰の手によっても封じられず、誰の心も否定されることのない、“真の癒し”の館として。
流星は、風の香に顔を上げて、最後に一言つぶやいた。
「……俺はまだまだ、癒され足りねぇからな。これからも、通うぜ」
「はいはい、煩悩の勇者さま」
雪は止み、風は東へ。
記憶を残したまま、新たな物語が、またひとつ始まろうとしていた──
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