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《欲望の女王と、快楽の均衡戦線(バランス・オブ・デザイア)》
第131話『処罰ルーム──快楽の地獄』
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「……では、審査結果を最終送信します」
淫魔官吏のひとりが、魔導端末をタップする。
《対象者:常盤流星》
《快楽適性値:63.4%(基準未達)》
《審査評価:不適正》
《処罰処遇:強化再教育プログラムへ移行》
──それは、予定通りの結果だった。
「ご案内します。流星様、“快楽矯正棟・Dエリア”へ」
「うん。よろしくな」
「……やけに素直ですね?」
「いやぁ~、俺もさすがに反省してるし、従順に“再教育”受けようと思ってさ~」
「……!? な、なぜかムカつきますね?」
──流星は、わざと快楽に対する反応を抑えた。
“処罰ルーム”に自ら足を踏み入れるために。
そしてそれは、彼の“煩悩式潜入戦術”のはじまりだった。
*
淫魔王国・地下矯正施設《快楽再統合棟》。
外見こそ美術館のように整っているが、その内部は──静かに狂っていた。
「ようこそ。快楽の再構成を始めましょう」
白衣姿の矯正官たちが待ち構える。
「あなたの快楽記憶を、国家標準の“基準快楽”に置き換えます」
「おい待て、記憶を書き換えるって、どういう──」
「心配いりません。心は形状記憶ですから。すぐ“正しい悦び”に順応しますよ」
(やべぇ、ここ……思った以上にマジでヤバい)
流星は表面上、にこやかに頷きながらも、内心は警戒MAX。
──矯正装置に押し込まれようとした直前、
「ちょっとトイレ行ってもいい?」
「……国家的には“尿意による快楽逃避”も評価項目です。許可します」
(すげぇな国家、そこまで評価してんのかよ……!)
*
数分後、警備の目をかいくぐり──
流星は、最深層に潜入していた。
《処罰ルーム・D5》
扉を開けた瞬間──そこには、衝撃の光景が広がっていた。
部屋全体に“快楽幻覚香”が漂い、天井には無数の光が投影されている。
そこに横たわるのは、十数人の男女。いずれも虚ろな目を開いたまま、笑っていた。
「──きもちい……あったかい……だれかが、よしよしって……」
「すごい……すごいよ……オレ、ほめられてる……ようやく、認められてる……」
だが、彼らの手は虚空を彷徨い、頬に触れるのは幻影。
誰も、もう“現実”に触れていない。
「これは……」
流星はそっと近づいた。
「みんな、“自分の望み”を否定されたんだな」
備えつけられた記録端末を調べる。
・被験者B-103:「マッサージはくすぐったいのがいい」と発言 → 基準から逸脱 → 再教育
・被験者D-254:「耳かき中に喋らないでほしい」 → “寂しがり屋”フラグと矛盾 → 再教育
・被験者A-051:「性的接触ではなく会話を望む」 → 不適正 → 処罰対象
「会話を望むって、そんな普通の希望さえ“処罰”なのかよ……」
「──誰?」
声がした。
幻覚の奥から、一人の少女が目を覚ましていた。
年齢は16、17といったところか。黒髪のボブカット、薄い唇。
その肌には、香による幻覚副作用の微細な斑点が浮いていた。
「……夢だと思ってた……“これが正しい癒し”だって、ずっと信じてた……
でも、もう……どこまでが本当で、どこまでが他人に刷り込まれた“喜び”か、分かんなくなった……」
「名前は?」
「……リィナ」
流星は膝をつき、彼女の目をまっすぐに見た。
「リィナ。お前の“好きなこと”は、なんだ?」
「……え?」
「“気持ちよかったな”って、心から思えた瞬間。教えてくれ」
しばらく黙ったあと、リィナは口を開いた。
「──昔、おばあちゃんに手を引かれて歩いたとき。
すっごい寒かったのに、手があったかくて。
手のひらが、やわらかくて……泣きそうになったの」
「……それが、リィナにとっての“癒し”だな」
「でも、それは“快楽数値”が低くて、“国家基準外”で……」
「基準とか関係ねぇよ」
流星は、彼女の手を取る。
「お前がその瞬間、救われたと思えたんなら、それが“癒し”なんだよ」
リィナの瞳から、ぽろりと涙がこぼれた。
「……ありがとう……ありがとう……っ」
*
その直後。
緊急通報──
「D5室、侵入者判明!! 快楽矯正対象が勝手に他者を“癒して”いる!!」
「こら待てや!! 俺はただ人助けを──」
「国策違反! 癒しは許可制です!!」
「なんでだよおおおおおお!!」
──全力で逃げながら叫んだ。
「癒しを選ぶ自由が、奪われてるってレベルじゃねぇ!!」
淫魔官吏のひとりが、魔導端末をタップする。
《対象者:常盤流星》
《快楽適性値:63.4%(基準未達)》
《審査評価:不適正》
《処罰処遇:強化再教育プログラムへ移行》
──それは、予定通りの結果だった。
「ご案内します。流星様、“快楽矯正棟・Dエリア”へ」
「うん。よろしくな」
「……やけに素直ですね?」
「いやぁ~、俺もさすがに反省してるし、従順に“再教育”受けようと思ってさ~」
「……!? な、なぜかムカつきますね?」
──流星は、わざと快楽に対する反応を抑えた。
“処罰ルーム”に自ら足を踏み入れるために。
そしてそれは、彼の“煩悩式潜入戦術”のはじまりだった。
*
淫魔王国・地下矯正施設《快楽再統合棟》。
外見こそ美術館のように整っているが、その内部は──静かに狂っていた。
「ようこそ。快楽の再構成を始めましょう」
白衣姿の矯正官たちが待ち構える。
「あなたの快楽記憶を、国家標準の“基準快楽”に置き換えます」
「おい待て、記憶を書き換えるって、どういう──」
「心配いりません。心は形状記憶ですから。すぐ“正しい悦び”に順応しますよ」
(やべぇ、ここ……思った以上にマジでヤバい)
流星は表面上、にこやかに頷きながらも、内心は警戒MAX。
──矯正装置に押し込まれようとした直前、
「ちょっとトイレ行ってもいい?」
「……国家的には“尿意による快楽逃避”も評価項目です。許可します」
(すげぇな国家、そこまで評価してんのかよ……!)
*
数分後、警備の目をかいくぐり──
流星は、最深層に潜入していた。
《処罰ルーム・D5》
扉を開けた瞬間──そこには、衝撃の光景が広がっていた。
部屋全体に“快楽幻覚香”が漂い、天井には無数の光が投影されている。
そこに横たわるのは、十数人の男女。いずれも虚ろな目を開いたまま、笑っていた。
「──きもちい……あったかい……だれかが、よしよしって……」
「すごい……すごいよ……オレ、ほめられてる……ようやく、認められてる……」
だが、彼らの手は虚空を彷徨い、頬に触れるのは幻影。
誰も、もう“現実”に触れていない。
「これは……」
流星はそっと近づいた。
「みんな、“自分の望み”を否定されたんだな」
備えつけられた記録端末を調べる。
・被験者B-103:「マッサージはくすぐったいのがいい」と発言 → 基準から逸脱 → 再教育
・被験者D-254:「耳かき中に喋らないでほしい」 → “寂しがり屋”フラグと矛盾 → 再教育
・被験者A-051:「性的接触ではなく会話を望む」 → 不適正 → 処罰対象
「会話を望むって、そんな普通の希望さえ“処罰”なのかよ……」
「──誰?」
声がした。
幻覚の奥から、一人の少女が目を覚ましていた。
年齢は16、17といったところか。黒髪のボブカット、薄い唇。
その肌には、香による幻覚副作用の微細な斑点が浮いていた。
「……夢だと思ってた……“これが正しい癒し”だって、ずっと信じてた……
でも、もう……どこまでが本当で、どこまでが他人に刷り込まれた“喜び”か、分かんなくなった……」
「名前は?」
「……リィナ」
流星は膝をつき、彼女の目をまっすぐに見た。
「リィナ。お前の“好きなこと”は、なんだ?」
「……え?」
「“気持ちよかったな”って、心から思えた瞬間。教えてくれ」
しばらく黙ったあと、リィナは口を開いた。
「──昔、おばあちゃんに手を引かれて歩いたとき。
すっごい寒かったのに、手があったかくて。
手のひらが、やわらかくて……泣きそうになったの」
「……それが、リィナにとっての“癒し”だな」
「でも、それは“快楽数値”が低くて、“国家基準外”で……」
「基準とか関係ねぇよ」
流星は、彼女の手を取る。
「お前がその瞬間、救われたと思えたんなら、それが“癒し”なんだよ」
リィナの瞳から、ぽろりと涙がこぼれた。
「……ありがとう……ありがとう……っ」
*
その直後。
緊急通報──
「D5室、侵入者判明!! 快楽矯正対象が勝手に他者を“癒して”いる!!」
「こら待てや!! 俺はただ人助けを──」
「国策違反! 癒しは許可制です!!」
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──全力で逃げながら叫んだ。
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