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《星の癒しと、忘れられた風俗都市》 ―忘却の都市《エストレリオ》、そして“感情を失った者たち”の癒し再生譚―
第137話『風俗都市の墓標──かつてここは、楽園だった』
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深夜、星が街を照らす時間帯。
《エストレリオ》の大図書記録庫《レメンの記憶棟》――
そこは、かつて都市の“快楽記録”を一括保管していた巨大地下施設である。
冷たい石の階段を下りながら、流星たちは息をひそめていた。
「やっぱり、正規の許可じゃ降りられなかったわね」
「“癒しに関する記録区域は非公開”って、明らかに怪しいだろ……」
リリアが警戒しつつ周囲を見張るなか、ミレーユが分析珠を掲げた。
「香気の残留反応、強いわ。特に“記憶誘導系”の香が……ここ、たぶん本物」
やがて、薄く開かれた扉の奥に、一行は足を踏み入れる。
そこは巨大なアーカイブ――だが、本棚の大半には空白の札。
過去に誰かの手で、大量の文書が“抜き取られた跡”があった。
「……ここが、“癒しを記録していた場所”……?」
流星が呟く。
沈黙の中、かすかに香が漂った。懐かしい、花のような、布のような匂い。
そして、薄暗がりのなか、一本の記録巻物が埃に包まれ、かろうじて残っていた。
「《施術記録No.91──感触と香による記憶回帰施術について》」
アリシアが読み上げる。
『この施術は、個人の皮膚記憶と嗅覚記憶を刺激することにより、
忘却された体験を再構築するものである。』
『例えば、幼少期に背中を撫でられた記憶、
好きだった人の衣擦れの音、
風呂上がりの母の手の匂い――
それらは“快楽”ではなく、“生きるための拠り所”だった。』
流星はしばらく無言のまま、巻物を見つめていた。
「……やっぱ、ここって“ただの風俗”じゃなかったんだな」
「“誰かの人生を、思い出させる場所”だったのよ」
ミレーユがゆっくりと呟く。
「触れることで、誰かを、過去を、もう一度思い出す……
そんな癒しが確立されてた。でも今は……」
記録の末尾には、短い一文が付記されていた。
『当局命令により、本施術は永久凍結とする。
理由:感情過多による市民の行動異常多発。
“癒しは危険”と判断されたため。』
「……癒しが“危険”だなんて、そんなの……!」
アストレアの声が震える。
「でも……分かる気もするんだ」
流星が言った。
「記憶って、時に痛い。思い出したくないこともある。
泣きたくなる記憶も、後悔も、やり直せない日々も……
だけど、それを“忘れさせる”って選択は、違う」
「……記憶は、痛くても、生きてた証だから」
そのとき、アリシアがなにかを見つけて声を上げた。
「……この下にある、“地下層”の設計図……!」
そこには、街の中心部に封鎖された大型施設《レメンブリウム》の存在が記されていた。
「ここが……風俗院の本丸、“回想の館”よ」
「でも、施設は完全封鎖。出入り口はすべて埋められた……?」
「──いや、ひとつ、残ってる」
流星は地図の隅に書かれた注釈に目をとめた。
《“記憶を刻む者のみ通過可能”──香鍵で開く扉》
「香鍵……?」
「記憶に反応する香、持ってる?」
「……ある」
流星は、自分の持ち歩くポーチから、小さな瓶を取り出す。
中には、かつてアストラシアでエイリーンから手渡された“最後の癒し香”があった。
「これ……“抱きしめたときの香り”だ」
リリアが口をつぐむ。
「じゃあ、行くのね?」
「行くさ。だって……」
流星は、静かに微笑んだ。
「ここが“癒しの墓標”ってんなら──
俺たちが、“また笑って通える道”にしてやる」
*
深夜、再封印された《回想の館》の石扉の前で。
流星は、香瓶を開き、そっと空気に放った。
甘くて、どこか切ない、誰かの腕の中にいた記憶の香りが、夜の中に舞った。
──カチッ
音がして、石扉が、静かに開いた。
中から吹き出したのは、無数の“忘れられた想い”の残り香だった。
「行こう。誰かの“もう一度会いたかった記憶”が、ここに眠ってる」
《エストレリオ》の大図書記録庫《レメンの記憶棟》――
そこは、かつて都市の“快楽記録”を一括保管していた巨大地下施設である。
冷たい石の階段を下りながら、流星たちは息をひそめていた。
「やっぱり、正規の許可じゃ降りられなかったわね」
「“癒しに関する記録区域は非公開”って、明らかに怪しいだろ……」
リリアが警戒しつつ周囲を見張るなか、ミレーユが分析珠を掲げた。
「香気の残留反応、強いわ。特に“記憶誘導系”の香が……ここ、たぶん本物」
やがて、薄く開かれた扉の奥に、一行は足を踏み入れる。
そこは巨大なアーカイブ――だが、本棚の大半には空白の札。
過去に誰かの手で、大量の文書が“抜き取られた跡”があった。
「……ここが、“癒しを記録していた場所”……?」
流星が呟く。
沈黙の中、かすかに香が漂った。懐かしい、花のような、布のような匂い。
そして、薄暗がりのなか、一本の記録巻物が埃に包まれ、かろうじて残っていた。
「《施術記録No.91──感触と香による記憶回帰施術について》」
アリシアが読み上げる。
『この施術は、個人の皮膚記憶と嗅覚記憶を刺激することにより、
忘却された体験を再構築するものである。』
『例えば、幼少期に背中を撫でられた記憶、
好きだった人の衣擦れの音、
風呂上がりの母の手の匂い――
それらは“快楽”ではなく、“生きるための拠り所”だった。』
流星はしばらく無言のまま、巻物を見つめていた。
「……やっぱ、ここって“ただの風俗”じゃなかったんだな」
「“誰かの人生を、思い出させる場所”だったのよ」
ミレーユがゆっくりと呟く。
「触れることで、誰かを、過去を、もう一度思い出す……
そんな癒しが確立されてた。でも今は……」
記録の末尾には、短い一文が付記されていた。
『当局命令により、本施術は永久凍結とする。
理由:感情過多による市民の行動異常多発。
“癒しは危険”と判断されたため。』
「……癒しが“危険”だなんて、そんなの……!」
アストレアの声が震える。
「でも……分かる気もするんだ」
流星が言った。
「記憶って、時に痛い。思い出したくないこともある。
泣きたくなる記憶も、後悔も、やり直せない日々も……
だけど、それを“忘れさせる”って選択は、違う」
「……記憶は、痛くても、生きてた証だから」
そのとき、アリシアがなにかを見つけて声を上げた。
「……この下にある、“地下層”の設計図……!」
そこには、街の中心部に封鎖された大型施設《レメンブリウム》の存在が記されていた。
「ここが……風俗院の本丸、“回想の館”よ」
「でも、施設は完全封鎖。出入り口はすべて埋められた……?」
「──いや、ひとつ、残ってる」
流星は地図の隅に書かれた注釈に目をとめた。
《“記憶を刻む者のみ通過可能”──香鍵で開く扉》
「香鍵……?」
「記憶に反応する香、持ってる?」
「……ある」
流星は、自分の持ち歩くポーチから、小さな瓶を取り出す。
中には、かつてアストラシアでエイリーンから手渡された“最後の癒し香”があった。
「これ……“抱きしめたときの香り”だ」
リリアが口をつぐむ。
「じゃあ、行くのね?」
「行くさ。だって……」
流星は、静かに微笑んだ。
「ここが“癒しの墓標”ってんなら──
俺たちが、“また笑って通える道”にしてやる」
*
深夜、再封印された《回想の館》の石扉の前で。
流星は、香瓶を開き、そっと空気に放った。
甘くて、どこか切ない、誰かの腕の中にいた記憶の香りが、夜の中に舞った。
──カチッ
音がして、石扉が、静かに開いた。
中から吹き出したのは、無数の“忘れられた想い”の残り香だった。
「行こう。誰かの“もう一度会いたかった記憶”が、ここに眠ってる」
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