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《楽園の夢と、風俗の彼方へ》 ――「癒し」が罪とされた楽園に、風俗勇者が踏み込む時
第146話『キスの記憶──神に背いた天使たち』
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──静寂。
深層地下。
空中都市《ルメア・ヴァスティア》の最奥、香祭器庫にて。
ひとつの香炉が、ゆっくりとその蓋を開いた。
ミレーユが調律香針で封香層をほぐすと、
封じられていた“記憶香”が、ふわりと空間に広がり始める。
透明にも似た蒼い香気。
それは嗅覚ではなく、魂に直接語りかけてくるような──
“想いの声”だった。
「私は、抱きしめたかっただけなのです」
「あの子の震える肩を。
ひとりで泣いていた夜を。
名前を呼ばれることのない人の、その存在を」
「それを、私は──香と、指先と、唇で伝えていたのです」
香が語り始めた。
*
映像ではなかった。
それは空間全体を包む、記憶そのもの。
都市上層で記録を削除され、“焚書”されたはずの過去が、
香気として生きていた。
小さな施術室。
布張りの寝椅子。
空に浮かぶ都市の一角に、確かに存在していた《癒しの天使院》。
そこでは、白衣を脱ぎ捨てた天使たちが、
本来の使命──“心を受け止める者”として働いていた。
香を炊き、肌に触れ、心音を確かめるように寄り添う。
沈黙の中で、手と手を重ね、名前を呼び、時には……唇を重ねて。
「神が与えた祝福とは、“触れられること”です」
「言葉にできない祈りは、肌にこそ宿る」
「香で伝える“好き”は、言葉よりも正直だった」
だが――
「私たちは、罰せられました」
「“あなたたちは堕ちた”と。
“聖性を汚した”と。
“快楽に溺れた”と。
でも、それでも私は、癒したかったのです」
香が震えた。
まるで、それが最後の告白であるかのように。
「わたしたちが交わしたキスに、罪はありませんでした」
「唇を合わせたあの夜、“あなたが泣いた”ことだけが、
私の、救いだったのですから」
沈黙。
香が、静かに消えていく。
空間に残ったのは、
“かつて、この都市に愛があった”という、どうしようもない事実。
*
流星は、拳を握っていた。
「……これが、“神罰”かよ」
「違う」
リヴィアが首を振った。
「これは、“愛を語った者が罰せられた記憶”です。
彼女たちは、神に背いたんじゃない。
“神が語らなかったこと”を、自分の体で伝えようとしただけ」
「祈りって……こんなに静かで、こんなに切ないのか……」
リリアが、小さく震えながら言った。
「ねぇ……こんなに、こんなに誰かを思った人たちが、
なんで“消された”の?」
ヴァネッサが叫んだ。
「なんで! こんな優しい記憶が、罰せられたのよ!!」
アリシアが答える。
「それはきっと、“触れられる癒し”が……強すぎたからよ」
「触れたら、誰も戻れなくなる。
だから、禁じた。都市が、社会が、人間そのものを“制御”したかったから」
「でも、それってただの――臆病だ」
流星が言う。
「本気で人を好きになること、誰かを抱きしめたくなること。
それを止められたら、人って……生きてる意味、あるのか?」
リヴィアは、香炉の前に跪いた。
そして、祈るように手を重ねる。
「わたしは、忘れません。
この香の記憶を、ここにあった想いを、
そして……キスに宿った“だいじょうぶ”という祈りを」
その瞬間、都市の封魔結界が微かに揺れた。
誰かの記憶が、確かに“生きていた”からだ。
流星は、天井を見上げた。
「俺は……“風俗勇者”でも、“癒し外交官”でもいい。
でもこの記録だけは、“国家が焼き捨てた過去”として終わらせねぇ」
「快楽は、罪じゃねぇ。
誰かと誰かが、もう一度立ち上がるための、最初の希望なんだよ」
そして、物語は次なる決断へ向かう。
戒律の都市を変えるために。
深層地下。
空中都市《ルメア・ヴァスティア》の最奥、香祭器庫にて。
ひとつの香炉が、ゆっくりとその蓋を開いた。
ミレーユが調律香針で封香層をほぐすと、
封じられていた“記憶香”が、ふわりと空間に広がり始める。
透明にも似た蒼い香気。
それは嗅覚ではなく、魂に直接語りかけてくるような──
“想いの声”だった。
「私は、抱きしめたかっただけなのです」
「あの子の震える肩を。
ひとりで泣いていた夜を。
名前を呼ばれることのない人の、その存在を」
「それを、私は──香と、指先と、唇で伝えていたのです」
香が語り始めた。
*
映像ではなかった。
それは空間全体を包む、記憶そのもの。
都市上層で記録を削除され、“焚書”されたはずの過去が、
香気として生きていた。
小さな施術室。
布張りの寝椅子。
空に浮かぶ都市の一角に、確かに存在していた《癒しの天使院》。
そこでは、白衣を脱ぎ捨てた天使たちが、
本来の使命──“心を受け止める者”として働いていた。
香を炊き、肌に触れ、心音を確かめるように寄り添う。
沈黙の中で、手と手を重ね、名前を呼び、時には……唇を重ねて。
「神が与えた祝福とは、“触れられること”です」
「言葉にできない祈りは、肌にこそ宿る」
「香で伝える“好き”は、言葉よりも正直だった」
だが――
「私たちは、罰せられました」
「“あなたたちは堕ちた”と。
“聖性を汚した”と。
“快楽に溺れた”と。
でも、それでも私は、癒したかったのです」
香が震えた。
まるで、それが最後の告白であるかのように。
「わたしたちが交わしたキスに、罪はありませんでした」
「唇を合わせたあの夜、“あなたが泣いた”ことだけが、
私の、救いだったのですから」
沈黙。
香が、静かに消えていく。
空間に残ったのは、
“かつて、この都市に愛があった”という、どうしようもない事実。
*
流星は、拳を握っていた。
「……これが、“神罰”かよ」
「違う」
リヴィアが首を振った。
「これは、“愛を語った者が罰せられた記憶”です。
彼女たちは、神に背いたんじゃない。
“神が語らなかったこと”を、自分の体で伝えようとしただけ」
「祈りって……こんなに静かで、こんなに切ないのか……」
リリアが、小さく震えながら言った。
「ねぇ……こんなに、こんなに誰かを思った人たちが、
なんで“消された”の?」
ヴァネッサが叫んだ。
「なんで! こんな優しい記憶が、罰せられたのよ!!」
アリシアが答える。
「それはきっと、“触れられる癒し”が……強すぎたからよ」
「触れたら、誰も戻れなくなる。
だから、禁じた。都市が、社会が、人間そのものを“制御”したかったから」
「でも、それってただの――臆病だ」
流星が言う。
「本気で人を好きになること、誰かを抱きしめたくなること。
それを止められたら、人って……生きてる意味、あるのか?」
リヴィアは、香炉の前に跪いた。
そして、祈るように手を重ねる。
「わたしは、忘れません。
この香の記憶を、ここにあった想いを、
そして……キスに宿った“だいじょうぶ”という祈りを」
その瞬間、都市の封魔結界が微かに揺れた。
誰かの記憶が、確かに“生きていた”からだ。
流星は、天井を見上げた。
「俺は……“風俗勇者”でも、“癒し外交官”でもいい。
でもこの記録だけは、“国家が焼き捨てた過去”として終わらせねぇ」
「快楽は、罪じゃねぇ。
誰かと誰かが、もう一度立ち上がるための、最初の希望なんだよ」
そして、物語は次なる決断へ向かう。
戒律の都市を変えるために。
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