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《砂漠の秘宝と、快楽を記す遺跡へ》 ――触れ合いを石に刻んだ民の、失われた祈りとは?
第159話『海より香る招待状──泡沫都市へようこそ』
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海は、静かに香った。
潮の匂いとは違う。
微かに甘く、そしてどこか冷たい。
──まるで、「誰かの名前を思い出せないまま漂う記憶」のようだった。
*
「星辰評議会より特別調査依頼──対象は《ナミウ=ロア》」
評議会の伝令役が差し出した封書には、精密な筆致でこう記されていた。
『風俗施術を受けた者の全記憶が、“施術中の感情ごと”消去されている』
『都市の機密として情報開示されていないが、すでに30件以上の“癒された記憶喪失者”の報告が上がっている』
『調査と記録の責任者として、“癒し外交官”常盤流星の派遣を要請する』
「……また面倒なとこに行かされるな、俺」
流星が苦笑する一方で、ミレーユが鋭い目をした。
「“記憶喪失者”の報告数が施術件数と一致してるなら、
それ、偶発じゃなくて“制度として消してる”ってことよ」
アリシアが淡々と補足する。
「この都市、表向きは“泡と香の癒しリゾート”だけど──
裏では“記憶を管理している”可能性がある」
「つまり……癒されたことさえも、なかったことにしてる?」
リリアが目を見開く。
「うわ、それ本気でヤバい匂いがする……」
「まぁ……いい湯加減かどうか、調べに行ってみるか」
流星が、鞄に香袋を詰めながらにやりと笑った。
「癒しの名を借りて“心を洗い流す”ってんなら──
こっちはその泡の下に何があるのか、ちゃんと嗅いでやるよ」
*
■水上都市《ナミウ=ロア》
その街は、水の上に浮かんでいた。
青緑の海面に、白と金の幾何学模様の平屋群。
街路の代わりに張り巡らされたガラスの橋。
施術所の軒先には、絶え間なく香り立つ湯気と泡。
「……まるで、海に咲く温泉都市って感じだな」
「でも、あの香り……ちょっと強すぎない?」
リリアが鼻をくすぐられながら言った。
「うん。通常の施術香より、圧倒的に“鎮静成分”が多い」
ミレーユが成分判別玉を翳す。
「しかも、記憶抑制効果のある“夢溶泡(むようほう)”系香成分が混じってる。
こっそり使うようなレベルじゃない。都市全体で“忘れさせる前提”で香を設計してるわ」
「……最初から“癒しは記憶に残すものじゃない”って決めつけてるんだ」
アリシアの声が低くなる。
そんななか、彼女たちのもとに一人の案内人が現れた。
「ようこそ、常盤流星様。
癒し庁のご依頼により、貴方様を《主施術庵》へとご案内いたします」
淡い泡のついた手を差し出したのは、リセ=フェアレンと名乗る少女。
真っ白な施術衣に包まれ、髪も瞳も薄い銀色。
だがその瞳は、妙に感情を閉ざしていた。
「当都市では、施術中にお名前を名乗ることは推奨しておりません。
お顔も可能な限り伏せていただき、感情記録も施術終了後に洗浄いたします」
「……感情記録を“洗浄”? 施術後に、ですか?」
「はい。癒しとは、記録せずに消えていくこと。
それが、“安全な回復”であると、我々は定義しております」
流星は、目を細めた。
「……じゃあ、癒されたことは?
施術師の手が、どんなにやさしくても──
“ありがとう”って、思ったことは?」
「洗い流します」
リセの声には、迷いがなかった。
だがその言葉の裏に、“何かを押し殺すような静けさ”があった。
「……その言い方、“何かを忘れたくてやってる人の顔”に見えるな」
そう、流星がぽつりと呟いたのは、案内された施術庵の扉の前だった。
リセの指が止まった。
だが、振り返ることはなかった。
そのまま、泡の香りに包まれた施術室の扉が、音もなく開かれていく。
──忘却の癒し。
香と泡にすべてを沈める都市の、本当の姿が、今、明らかになろうとしていた。
潮の匂いとは違う。
微かに甘く、そしてどこか冷たい。
──まるで、「誰かの名前を思い出せないまま漂う記憶」のようだった。
*
「星辰評議会より特別調査依頼──対象は《ナミウ=ロア》」
評議会の伝令役が差し出した封書には、精密な筆致でこう記されていた。
『風俗施術を受けた者の全記憶が、“施術中の感情ごと”消去されている』
『都市の機密として情報開示されていないが、すでに30件以上の“癒された記憶喪失者”の報告が上がっている』
『調査と記録の責任者として、“癒し外交官”常盤流星の派遣を要請する』
「……また面倒なとこに行かされるな、俺」
流星が苦笑する一方で、ミレーユが鋭い目をした。
「“記憶喪失者”の報告数が施術件数と一致してるなら、
それ、偶発じゃなくて“制度として消してる”ってことよ」
アリシアが淡々と補足する。
「この都市、表向きは“泡と香の癒しリゾート”だけど──
裏では“記憶を管理している”可能性がある」
「つまり……癒されたことさえも、なかったことにしてる?」
リリアが目を見開く。
「うわ、それ本気でヤバい匂いがする……」
「まぁ……いい湯加減かどうか、調べに行ってみるか」
流星が、鞄に香袋を詰めながらにやりと笑った。
「癒しの名を借りて“心を洗い流す”ってんなら──
こっちはその泡の下に何があるのか、ちゃんと嗅いでやるよ」
*
■水上都市《ナミウ=ロア》
その街は、水の上に浮かんでいた。
青緑の海面に、白と金の幾何学模様の平屋群。
街路の代わりに張り巡らされたガラスの橋。
施術所の軒先には、絶え間なく香り立つ湯気と泡。
「……まるで、海に咲く温泉都市って感じだな」
「でも、あの香り……ちょっと強すぎない?」
リリアが鼻をくすぐられながら言った。
「うん。通常の施術香より、圧倒的に“鎮静成分”が多い」
ミレーユが成分判別玉を翳す。
「しかも、記憶抑制効果のある“夢溶泡(むようほう)”系香成分が混じってる。
こっそり使うようなレベルじゃない。都市全体で“忘れさせる前提”で香を設計してるわ」
「……最初から“癒しは記憶に残すものじゃない”って決めつけてるんだ」
アリシアの声が低くなる。
そんななか、彼女たちのもとに一人の案内人が現れた。
「ようこそ、常盤流星様。
癒し庁のご依頼により、貴方様を《主施術庵》へとご案内いたします」
淡い泡のついた手を差し出したのは、リセ=フェアレンと名乗る少女。
真っ白な施術衣に包まれ、髪も瞳も薄い銀色。
だがその瞳は、妙に感情を閉ざしていた。
「当都市では、施術中にお名前を名乗ることは推奨しておりません。
お顔も可能な限り伏せていただき、感情記録も施術終了後に洗浄いたします」
「……感情記録を“洗浄”? 施術後に、ですか?」
「はい。癒しとは、記録せずに消えていくこと。
それが、“安全な回復”であると、我々は定義しております」
流星は、目を細めた。
「……じゃあ、癒されたことは?
施術師の手が、どんなにやさしくても──
“ありがとう”って、思ったことは?」
「洗い流します」
リセの声には、迷いがなかった。
だがその言葉の裏に、“何かを押し殺すような静けさ”があった。
「……その言い方、“何かを忘れたくてやってる人の顔”に見えるな」
そう、流星がぽつりと呟いたのは、案内された施術庵の扉の前だった。
リセの指が止まった。
だが、振り返ることはなかった。
そのまま、泡の香りに包まれた施術室の扉が、音もなく開かれていく。
──忘却の癒し。
香と泡にすべてを沈める都市の、本当の姿が、今、明らかになろうとしていた。
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