異世界風俗❤『異世界転生したら風俗店こそが癒しの最前線だった件~俺は冒険して稼ぎ、全力で愛され、そして搾られる~』

本能寺から始める常陸之介寛浩

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《砂漠の秘宝と、快楽を記す遺跡へ》 ――触れ合いを石に刻んだ民の、失われた祈りとは?

第160話『洗われた街──癒しは忘却の中に』

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 ──水の音が、施術室の奥から絶え間なく響いていた。

 波の音ではない。
 それは、湯と泡が流れ落ちる音。
 そして、“感情が洗われていく音”だった。

 *

「こちらが、本日ご案内する《清拭施術所・第一庵》です」

 施術師リセが淡々と案内したその建物は、
 まるで大理石で組まれた巨大な湯屋のようだった。

 足を踏み入れるとすぐに香りが鼻を満たす。
 通常の癒し香とは異なる、“浄化”を意識した薄荷と白檀の調合。
 それに加えて、微かに香泡の“記憶抑制成分”が混じっていた。

「この都市では、すべての施術は“洗うこと”から始まります」

 リセが告げる。

「身体だけでなく、感情、記憶、思考。
 癒された“痕跡”すら、最終的には泡と共に洗い流されます」

「癒されたことを……忘れさせるってことか?」

 流星が問うと、リセは微かにうなずいた。

「はい。
 “癒された記憶”は、依存や執着、再発の原因になるとされております。
 当都市の市民にとって、“記憶を持ち帰らない施術”こそが最上の癒しです」

「……それで、みんな納得してんのか?」

「納得というより、信じています。
 “癒しは水と同じ。与えて、染み込ませ、消えていくもの”。
 それが私たちの教えです」

 *

 実際に施術を受ける市民たちは、驚くほど静かだった。

 湯舟へと誘導され、洗泡用の香油が肌に広げられ、
 施術師が無言で背中を撫で、泡立て、包み込むように拭う。

 まるで“赤子を洗うような丁寧さ”だった。

 しかし、最後に必ず施されるのが――

 香泡(こうほう)による記憶封鎖施術。

 施術部屋の一角に設けられた香焚盤に、白く香り高い泡が盛られ、
 それを湯気とともに吸い込むことで、施術中の感情が穏やかに薄れていく。

「……あー、気持ちよかった」

 施術を終えた青年が言う。

「……でも、なんか、俺、さっき何されてたっけ?」

「あはは、それでいいのよ。
 “何も覚えてないくらいスッキリした”って、ここじゃ誉め言葉なの」

 ヒロインたちは、それを黙って見ていた。

 *

 施術庵を出たあと。

 海に面した回廊にて、ヒロインズが一斉に口を開いた。

「……ねぇ、あれって……癒しって言えるの?」

 リリアが眉をひそめる。

「気持ちよくなって、全部忘れて……
 それって、意味あるのかな?
 “ふれてもらったこと”を忘れて、何が残るの?」

 ミレーユが低く呟く。

「……むしろ“残さないように設計された施術”よ。
 感情を刺激しても、そのままでは“都市の治安に悪影響”って判断されてる」

「でも、それってさ」

 アリシアが静かに言う。

「誰かが手を差し伸べてくれたことも、
 自分が誰かに抱きしめられたことも、
 ……“無かったこと”にするってことでしょう?」

 沈黙。

「私たち、今までいろんな施術を見てきたよね」

 リリアが言う。

「気持ち悪いくらい密着してくるとこもあったし、
 やたら耳元でささやいてくるとこもあったし、
 “ととのうって何”って思うような風俗も、いっぱいあったけど」

「でも……」

「全部、“ふれられた記憶”は残ってたよ」

 ミレーユが言葉を継ぐ。

「そう。“名前を呼んでもらえた”“笑ってくれた”“泣いてた”……
 そういう、ふれられた痕跡が、“残ってた”からこそ、
 みんな“また明日、生きてみよう”って思えてたのよ」

「忘れて癒すって……それって、癒しじゃなくて、ただの無かったことじゃないの?」

 アリシアが静かに結ぶ。

「記録しない癒しなんて……
 本当に“癒した”って言えるの?」

 *

 一行は再び庵へ戻る。

 流星は、施術台の奥にある“記録封鎖室”の前で立ち止まった。

 リセが待っていた。

「……おかえりなさい、常盤様」

「なぁ、ひとつだけ聞かせてくれ」

 流星は、真正面から問いかけた。

「お前自身は……本当にそれでいいのか?
 癒した手が、癒した事実ごと消えていくこと。
 誰にも“ありがとう”って言われないまま、誰かの痛みを洗い流すこと──
 本当に、それが癒しだと思ってるのか?」

 リセの瞳が、ほんのわずか揺れた。

 だが、彼女は一言だけ返した。

「……はい。
 ここでは、それが“正しい癒し”です」

 そして、彼女は背を向けた。

 ──まるで、自分の“答え”さえ、泡で洗い流すように。
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