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《砂漠の秘宝と、快楽を記す遺跡へ》 ――触れ合いを石に刻んだ民の、失われた祈りとは?
第169話『夢を孕む都──“愛された記憶”しか残らない場所』
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──愛されたはずなのに、誰が愛してくれたのかを思い出せない。
そんな都市が、世界の果てに存在している。
その名は、《ルメ=ノクターナ》。
星辰評議会が最後まで「調査対象」に加えることをためらった、
唯一の“夢を扱う風俗都市”だった。
*
「……夢娼館、ねぇ……」
流星は報告書を片手に、眉をひそめていた。
「“現実の記録が一切残らない施術”って、どういうことよ?」
ミレーユがソファから身を乗り出す。
「ここに書かれてる通りです」
アリシアが淡々と答える。
「この都市で提供されているのは、“施術師が夢の中に入り込む型の癒し”。
現実では何も行われておらず、施術者の姿も名前も確認できない。
だが、体験者は皆こう証言している──
“愛された記憶だけが、心に残っている”と」
「記録はゼロ、物証もゼロ、でも“感情の幸福感”だけは完璧ってことか」
流星は小さく息を吐く。
「……なんかもう、“快楽の幽霊屋敷”って感じだな」
「ええ。でも、問題はそこじゃありません」
リリアが真顔で言った。
「“記憶と現実が乖離しすぎて、自分がどこにいるのか分からなくなる人が出ている”──
それが今回、評議会が調査を命じた本当の理由よ」
*
《夢娼都市ルメ=ノクターナ》は、空中都市に近い形で建設されていた。
厚い雲層の上に、星灯りと幻灯で構築された都市空間。
建築物の輪郭は柔らかく、石と香木、布と水が滑らかに融合している。
その中心にそびえ立つのが、“夢娼館《レヴェリス》”。
館には看板がない。
あるのは、ゆらめく香の幕と、無数の“眠っている客”たち。
入口にはこんな一文が記されている。
『ふれて、愛されて、忘れてください』
『そして朝には、“幸福感”だけをお持ち帰りください』
「……えげつないわね」
ミレーユが思わずつぶやいた。
「記憶すらコントロールして、“感情だけ与える”施術なんて……
もはや恋愛詐欺どころじゃないわよ、これ」
「でも、口コミ評価はすべて満点に近いのよ」
リリアが報告端末を開く。
「“こんなに幸せな夢は初めてだった”
“誰かに愛された感触が、まだ肌に残っている”
“名前も顔も覚えてないけど、心だけが満たされた”──」
「……おかしい」
アリシアが首を振る。
「癒された“記憶”がないのに、“幸福感”だけが持続してるなんて、
明らかに感情操作か、深層記憶への干渉が行われている」
「……つまり、“夢を利用した風俗洗脳”の可能性もあるってことだな」
流星は肩を回し、立ち上がる。
「行こう。
夢にふれるなら、こっちも“本気の現実”で行かなきゃな」
*
夢娼館《レヴェリス》は、香に包まれていた。
受付嬢は何も語らず、ただ手のひらに香粒をのせてくる。
「お客様のお名前は不要です。
目を閉じて、ただ“癒されたい”と願ってください」
香がゆらぎ、天井の星灯が淡く明滅する。
そして次の瞬間、流星は――
ベッドの上に横たわり、
ふわりと甘い風に包まれていた。
(夢だ……)
けれど、あたたかい。
体温を持つ指が、自分の額に触れていた。
(誰……?)
声がした。
「……あなたの名を、私は呼ばない。
でも、あなたの心だけは包むわ」
その声は少女のものだった。
けれど、目を開けても顔が見えない。
「私は、夢の中でしか触れられない風俗師。
覚えなくていい。
でも、“愛された”ことだけは、覚えていて」
流星の意識が、揺れる。
確かに施術はされている。
だが、ふれた手のぬくもり、体の熱、吐息の距離──
すべてがぼやけ、名もないまま、深く、甘く、沈んでいく。
(愛されてる……けど……)
(俺は……これでいいのか?)
そのまま夢に沈む寸前、
誰かの名を呼ぼうとした自分の声が、
泡のように空へと溶けた。
そんな都市が、世界の果てに存在している。
その名は、《ルメ=ノクターナ》。
星辰評議会が最後まで「調査対象」に加えることをためらった、
唯一の“夢を扱う風俗都市”だった。
*
「……夢娼館、ねぇ……」
流星は報告書を片手に、眉をひそめていた。
「“現実の記録が一切残らない施術”って、どういうことよ?」
ミレーユがソファから身を乗り出す。
「ここに書かれてる通りです」
アリシアが淡々と答える。
「この都市で提供されているのは、“施術師が夢の中に入り込む型の癒し”。
現実では何も行われておらず、施術者の姿も名前も確認できない。
だが、体験者は皆こう証言している──
“愛された記憶だけが、心に残っている”と」
「記録はゼロ、物証もゼロ、でも“感情の幸福感”だけは完璧ってことか」
流星は小さく息を吐く。
「……なんかもう、“快楽の幽霊屋敷”って感じだな」
「ええ。でも、問題はそこじゃありません」
リリアが真顔で言った。
「“記憶と現実が乖離しすぎて、自分がどこにいるのか分からなくなる人が出ている”──
それが今回、評議会が調査を命じた本当の理由よ」
*
《夢娼都市ルメ=ノクターナ》は、空中都市に近い形で建設されていた。
厚い雲層の上に、星灯りと幻灯で構築された都市空間。
建築物の輪郭は柔らかく、石と香木、布と水が滑らかに融合している。
その中心にそびえ立つのが、“夢娼館《レヴェリス》”。
館には看板がない。
あるのは、ゆらめく香の幕と、無数の“眠っている客”たち。
入口にはこんな一文が記されている。
『ふれて、愛されて、忘れてください』
『そして朝には、“幸福感”だけをお持ち帰りください』
「……えげつないわね」
ミレーユが思わずつぶやいた。
「記憶すらコントロールして、“感情だけ与える”施術なんて……
もはや恋愛詐欺どころじゃないわよ、これ」
「でも、口コミ評価はすべて満点に近いのよ」
リリアが報告端末を開く。
「“こんなに幸せな夢は初めてだった”
“誰かに愛された感触が、まだ肌に残っている”
“名前も顔も覚えてないけど、心だけが満たされた”──」
「……おかしい」
アリシアが首を振る。
「癒された“記憶”がないのに、“幸福感”だけが持続してるなんて、
明らかに感情操作か、深層記憶への干渉が行われている」
「……つまり、“夢を利用した風俗洗脳”の可能性もあるってことだな」
流星は肩を回し、立ち上がる。
「行こう。
夢にふれるなら、こっちも“本気の現実”で行かなきゃな」
*
夢娼館《レヴェリス》は、香に包まれていた。
受付嬢は何も語らず、ただ手のひらに香粒をのせてくる。
「お客様のお名前は不要です。
目を閉じて、ただ“癒されたい”と願ってください」
香がゆらぎ、天井の星灯が淡く明滅する。
そして次の瞬間、流星は――
ベッドの上に横たわり、
ふわりと甘い風に包まれていた。
(夢だ……)
けれど、あたたかい。
体温を持つ指が、自分の額に触れていた。
(誰……?)
声がした。
「……あなたの名を、私は呼ばない。
でも、あなたの心だけは包むわ」
その声は少女のものだった。
けれど、目を開けても顔が見えない。
「私は、夢の中でしか触れられない風俗師。
覚えなくていい。
でも、“愛された”ことだけは、覚えていて」
流星の意識が、揺れる。
確かに施術はされている。
だが、ふれた手のぬくもり、体の熱、吐息の距離──
すべてがぼやけ、名もないまま、深く、甘く、沈んでいく。
(愛されてる……けど……)
(俺は……これでいいのか?)
そのまま夢に沈む寸前、
誰かの名を呼ぼうとした自分の声が、
泡のように空へと溶けた。
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