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《砂漠の秘宝と、快楽を記す遺跡へ》 ――触れ合いを石に刻んだ民の、失われた祈りとは?
第170話『誰も起きてこない──愛された者たちの証言』
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──その都市では、朝になっても、誰も「目覚めた」と言わなかった。
彼らは言う。
「昨夜は、最高だった」
「愛された。たしかに、心まで包み込まれた」
「いまも、体がふるえてる」
「優しかった。あたたかかった。やわらかかった」
「夢じゃない、ちゃんと“ふれられた”」
「だけど……」
「誰に、とは思い出せないんだ」
*
夢娼都市《ルメ=ノクターナ》――
そこは、“現実”と“施術”が乖離している都市。
寝台の上には施術記録も、写真も、録音も何も残らない。
ただひとつだけ残るのは、「愛された感覚」。
それだけが、まるで星明かりの残像のように心に残る。
「……ほんとに、全員がこうなのか?」
香庁支部で報告を読み上げながら、流星が訊いた。
アリシアが頷く。
「ええ。今朝、夢娼館から出てきた43人の客全員に聞き取りを行ったけれど──
“誰に施術されたか”を答えられた人は、一人もいなかった」
「でも、“愛されたこと”だけは、みんな覚えてるのよ」
ミレーユが報告記録の中からいくつか読み上げる。
「夢の中で、ずっと手を握ってくれていた」
「自分の涙を、何度も拭いてくれた」
「誰かに“愛してる”って言われた……気がする」
「名前も顔も覚えてない。でも、その声だけが胸に残ってる」
「……これ、逆に怖いわね。
“誰でもよかった”って言葉に聞こえる」
「でも、皆一様に“幸福だった”と答えている」
アリシアが続ける。
「医師の診断でもストレスホルモン値が大幅に低下しており、
癒し効果としては極めて高い。
ただし、現実との接続が弱まるという“離人症的兆候”も散見され始めてる」
「つまり、“夢の愛”だけで満足しすぎて、
現実に戻ることをやめちゃう人間が出てきてるってことか」
流星がつぶやいた。
「……それって、“癒し”じゃなくて“依存”なんじゃねぇの?」
*
午後、流星たちは都市広場の一角で“施術経験者”たちと面談を行った。
参加者は20代から高齢者までさまざま。
共通するのは、全員が“夢の施術”を複数回体験済みという点だった。
「ねぇ、おじいさん。
また夢娼館に行きたいと思いますか?」
リリアが質問すると、老人はしわだらけの手を胸に当てて、笑った。
「もちろんだとも。
あんなにもやさしくされたのは、人生で初めてだった」
「誰が施術したのか、覚えてますか?」
「はて……女だったかな?
いや、声が少年のようでもあったな。
でも、とにかく、私をまっすぐ見てくれたんだ。
あの目を、私は……」
彼はそこで言葉を止め、首を振った。
「いや、思い出せん。
ただ、手のぬくもりだけが、ここにあるんだよ。
ああ、それで十分さ。
もう“誰か”に触れてほしいとは思わない。
だって、もう満ち足りてるんだから」
「……それが“癒し”だって、言えるんでしょうか」
リセが、ぽつりとつぶやいた。
*
夜。
夢娼館《レヴェリス》前にて。
流星は昨夜の“施術体験”を振り返っていた。
「……確かに、愛された気がした。
ふれて、抱かれて、心まで撫でられた感覚があった。
でも、顔も、名前も、思い出せない。
目を閉じれば涙が出そうなくらい、あったかかったのに──
“誰に”そうされたのかが、どんどん霞んでいく」
「……それでも、癒されたんだ」
「なのに、“ありがとう”を誰にも言えない」
その言葉に、背後から声が返ってきた。
「“ありがとう”は、言えなくても、伝わることがあります」
リセだった。
「でも……それでも、私は“名前を呼ばれる施術”のほうが好きです」
「あなたにふれたのが“わたし”であると、
ちゃんと残ってほしい。
夢であっても、名前がなければ、
私は“そこにいなかった”ことになるから」
「ふれた記憶だけじゃ、足りないのかもしれません」
「人は、きっと“誰が”ふれてくれたかを、
本当はずっと、知りたいんです」
その言葉に、流星は静かに頷いた。
「じゃあ──夢の中でも、名前を呼ぼう。
お前が誰なのか、忘れないように」
彼らは言う。
「昨夜は、最高だった」
「愛された。たしかに、心まで包み込まれた」
「いまも、体がふるえてる」
「優しかった。あたたかかった。やわらかかった」
「夢じゃない、ちゃんと“ふれられた”」
「だけど……」
「誰に、とは思い出せないんだ」
*
夢娼都市《ルメ=ノクターナ》――
そこは、“現実”と“施術”が乖離している都市。
寝台の上には施術記録も、写真も、録音も何も残らない。
ただひとつだけ残るのは、「愛された感覚」。
それだけが、まるで星明かりの残像のように心に残る。
「……ほんとに、全員がこうなのか?」
香庁支部で報告を読み上げながら、流星が訊いた。
アリシアが頷く。
「ええ。今朝、夢娼館から出てきた43人の客全員に聞き取りを行ったけれど──
“誰に施術されたか”を答えられた人は、一人もいなかった」
「でも、“愛されたこと”だけは、みんな覚えてるのよ」
ミレーユが報告記録の中からいくつか読み上げる。
「夢の中で、ずっと手を握ってくれていた」
「自分の涙を、何度も拭いてくれた」
「誰かに“愛してる”って言われた……気がする」
「名前も顔も覚えてない。でも、その声だけが胸に残ってる」
「……これ、逆に怖いわね。
“誰でもよかった”って言葉に聞こえる」
「でも、皆一様に“幸福だった”と答えている」
アリシアが続ける。
「医師の診断でもストレスホルモン値が大幅に低下しており、
癒し効果としては極めて高い。
ただし、現実との接続が弱まるという“離人症的兆候”も散見され始めてる」
「つまり、“夢の愛”だけで満足しすぎて、
現実に戻ることをやめちゃう人間が出てきてるってことか」
流星がつぶやいた。
「……それって、“癒し”じゃなくて“依存”なんじゃねぇの?」
*
午後、流星たちは都市広場の一角で“施術経験者”たちと面談を行った。
参加者は20代から高齢者までさまざま。
共通するのは、全員が“夢の施術”を複数回体験済みという点だった。
「ねぇ、おじいさん。
また夢娼館に行きたいと思いますか?」
リリアが質問すると、老人はしわだらけの手を胸に当てて、笑った。
「もちろんだとも。
あんなにもやさしくされたのは、人生で初めてだった」
「誰が施術したのか、覚えてますか?」
「はて……女だったかな?
いや、声が少年のようでもあったな。
でも、とにかく、私をまっすぐ見てくれたんだ。
あの目を、私は……」
彼はそこで言葉を止め、首を振った。
「いや、思い出せん。
ただ、手のぬくもりだけが、ここにあるんだよ。
ああ、それで十分さ。
もう“誰か”に触れてほしいとは思わない。
だって、もう満ち足りてるんだから」
「……それが“癒し”だって、言えるんでしょうか」
リセが、ぽつりとつぶやいた。
*
夜。
夢娼館《レヴェリス》前にて。
流星は昨夜の“施術体験”を振り返っていた。
「……確かに、愛された気がした。
ふれて、抱かれて、心まで撫でられた感覚があった。
でも、顔も、名前も、思い出せない。
目を閉じれば涙が出そうなくらい、あったかかったのに──
“誰に”そうされたのかが、どんどん霞んでいく」
「……それでも、癒されたんだ」
「なのに、“ありがとう”を誰にも言えない」
その言葉に、背後から声が返ってきた。
「“ありがとう”は、言えなくても、伝わることがあります」
リセだった。
「でも……それでも、私は“名前を呼ばれる施術”のほうが好きです」
「あなたにふれたのが“わたし”であると、
ちゃんと残ってほしい。
夢であっても、名前がなければ、
私は“そこにいなかった”ことになるから」
「ふれた記憶だけじゃ、足りないのかもしれません」
「人は、きっと“誰が”ふれてくれたかを、
本当はずっと、知りたいんです」
その言葉に、流星は静かに頷いた。
「じゃあ──夢の中でも、名前を呼ぼう。
お前が誰なのか、忘れないように」
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