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《言葉のいらない森と、快楽を奏でる音精たち》
第176話『音がふれる森──言葉なき快楽の入り口』
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──それは、風のようにふれてきた。
皮膚ではない。
心でもない。
だが、たしかに“そこにいる”と感じさせる。
音だけで、感情をふれてくる――そんな癒しが、この世にあるというのか?
*
「感情共有による施術? また新種の風俗か?」
流星は報告書の表紙をぱらぱらとめくりながら、半ば冗談交じりに言った。
だが、その内容には冗談の余地はなかった。
【星辰評議会 特別任務報告書第2298号】
対象地域:東方幻霧帯《フィル=アウル》
現象:直接接触を伴わない快楽的癒し施術の存在を確認。
手段:音波共鳴、振動伝達、音素交換による情動共有。
危険性:言語未使用地域のため、意思疎通不能の可能性あり。
依頼内容:「音精族(おとせいぞく)」との接触と施術体験の記録取得。
「……なんだこりゃ。オーディオセラピーの進化系か?」
アリシアがメモをめくりながら口を開いた。
「実際に現地で受けたという被験者は、“ふれられていないのに体が震えた”と証言している。
しかも“施術者に言葉をかけられた記憶もない”のに、
“愛されていた気がする”とまで言い切ったわ」
「いやいや、直接ふれてないのに快楽与えるって……それ、もはや異能の類じゃねぇか?」
ミレーユが両腕を組み、思い切り眉をひそめた。
「でも、わたしちょっとだけ……ワクワクする」
リリアがぼそっと漏らした。
「言葉なしで癒すって、
どこか、夢娼館のときに感じた“言葉を超えた感覚”に似てる気がするのよ」
*
音精族が暮らすとされる森――《フィル=アウル》。
その入り口は、霧と枝の重なりの中に紛れていた。
地図にも載っておらず、標識もない。
だが、そこに一歩足を踏み入れた瞬間、
誰もが息をのんだ。
「……音が、ふれてくる……」
森の中は静かだった。
風の音も、小鳥の声も聞こえない。
だが、木々が震えるたび、葉がふるえるたび、
そこには“音”があった。
楽器ではない。
声でもない。
しかし、たしかに“伝わる音”。
──柔らかく、揺れるような、
微細な振動と空気のうねりが、
“心の壁”を撫でてくる。
「これ……言葉の代わり?」
「感情……かも」
リリアが囁くように言った。
「たとえば、さっきの風。
わたし、“ようこそ”って言われた気がした……」
「思い込みかもしれないけど……それでも、ふれてきた」
*
森の奥へと進むにつれ、音は複雑さを増していった。
風の音、葉の音、水の音――
それらが交錯し、まるで“合奏”のように流星たちの周囲を巡る。
まるで森全体が、一つの楽器のように鳴っている。
「ふれずに、こんなに感じさせてくるなんて……」
流星がつぶやいたときだった。
目の前に現れたのは、
一人の少女だった。
銀白の髪。
耳元から伸びた繊細な触角のような音晶(おんしょう)構造。
透き通るような衣。
そして何より、彼女の周囲にだけ、
“まったく風が吹いていない”のに、音が漂っていた。
彼女は言葉を発さなかった。
だが、その場にいた誰もが感じていた。
――「こんにちは」
音が、ふれた。
まるで掌で頬を撫でられたかのように、
優しく、迷いなく、そこに“在った”。
「……この子が……音精?」
「間違いない。
音だけで意思を伝えてる……」
彼女の瞳が、ゆっくりと流星を見つめる。
次の瞬間――
“音”が、流星の胸に直撃した。
あたたかい。
懐かしい。
なぜだか、泣きそうになる。
「……っ……なんだ……これ……!」
そのとき。
少女の胸元に咲いていた音晶花が、小さく共鳴した。
音がひとつ、空間に刻まれる。
それはまだ“言葉”にはなっていない。
でも、それは、はっきりと“名乗り”だった。
──《ルセナ》。
その名を、音がふれてきた。
皮膚ではない。
心でもない。
だが、たしかに“そこにいる”と感じさせる。
音だけで、感情をふれてくる――そんな癒しが、この世にあるというのか?
*
「感情共有による施術? また新種の風俗か?」
流星は報告書の表紙をぱらぱらとめくりながら、半ば冗談交じりに言った。
だが、その内容には冗談の余地はなかった。
【星辰評議会 特別任務報告書第2298号】
対象地域:東方幻霧帯《フィル=アウル》
現象:直接接触を伴わない快楽的癒し施術の存在を確認。
手段:音波共鳴、振動伝達、音素交換による情動共有。
危険性:言語未使用地域のため、意思疎通不能の可能性あり。
依頼内容:「音精族(おとせいぞく)」との接触と施術体験の記録取得。
「……なんだこりゃ。オーディオセラピーの進化系か?」
アリシアがメモをめくりながら口を開いた。
「実際に現地で受けたという被験者は、“ふれられていないのに体が震えた”と証言している。
しかも“施術者に言葉をかけられた記憶もない”のに、
“愛されていた気がする”とまで言い切ったわ」
「いやいや、直接ふれてないのに快楽与えるって……それ、もはや異能の類じゃねぇか?」
ミレーユが両腕を組み、思い切り眉をひそめた。
「でも、わたしちょっとだけ……ワクワクする」
リリアがぼそっと漏らした。
「言葉なしで癒すって、
どこか、夢娼館のときに感じた“言葉を超えた感覚”に似てる気がするのよ」
*
音精族が暮らすとされる森――《フィル=アウル》。
その入り口は、霧と枝の重なりの中に紛れていた。
地図にも載っておらず、標識もない。
だが、そこに一歩足を踏み入れた瞬間、
誰もが息をのんだ。
「……音が、ふれてくる……」
森の中は静かだった。
風の音も、小鳥の声も聞こえない。
だが、木々が震えるたび、葉がふるえるたび、
そこには“音”があった。
楽器ではない。
声でもない。
しかし、たしかに“伝わる音”。
──柔らかく、揺れるような、
微細な振動と空気のうねりが、
“心の壁”を撫でてくる。
「これ……言葉の代わり?」
「感情……かも」
リリアが囁くように言った。
「たとえば、さっきの風。
わたし、“ようこそ”って言われた気がした……」
「思い込みかもしれないけど……それでも、ふれてきた」
*
森の奥へと進むにつれ、音は複雑さを増していった。
風の音、葉の音、水の音――
それらが交錯し、まるで“合奏”のように流星たちの周囲を巡る。
まるで森全体が、一つの楽器のように鳴っている。
「ふれずに、こんなに感じさせてくるなんて……」
流星がつぶやいたときだった。
目の前に現れたのは、
一人の少女だった。
銀白の髪。
耳元から伸びた繊細な触角のような音晶(おんしょう)構造。
透き通るような衣。
そして何より、彼女の周囲にだけ、
“まったく風が吹いていない”のに、音が漂っていた。
彼女は言葉を発さなかった。
だが、その場にいた誰もが感じていた。
――「こんにちは」
音が、ふれた。
まるで掌で頬を撫でられたかのように、
優しく、迷いなく、そこに“在った”。
「……この子が……音精?」
「間違いない。
音だけで意思を伝えてる……」
彼女の瞳が、ゆっくりと流星を見つめる。
次の瞬間――
“音”が、流星の胸に直撃した。
あたたかい。
懐かしい。
なぜだか、泣きそうになる。
「……っ……なんだ……これ……!」
そのとき。
少女の胸元に咲いていた音晶花が、小さく共鳴した。
音がひとつ、空間に刻まれる。
それはまだ“言葉”にはなっていない。
でも、それは、はっきりと“名乗り”だった。
──《ルセナ》。
その名を、音がふれてきた。
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