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《言葉のいらない森と、快楽を奏でる音精たち》
第177話『音精ルセナ──触れずに響く少女』
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──指も伸ばさず、声も発さず、
それでも彼女は“癒し”を与えてきた。
ふれたわけではない。
でも、たしかに“ふれられた”。
それが、ルセナという少女だった。
*
「《ルセナ》……それが君の名なんだな?」
森の奥、透き通る音の壁の前で。
流星はゆっくりと、少女へ言葉を投げた。
けれど、返事はなかった。
いや、言葉による返事はなかった。
代わりに、足元の音晶がかすかに震え、
胸の奥に“ぴたり”と重なる振動が届いた。
「……ああ、なるほど。
“うん”って、言ってくれてるのか」
流星はすぐに理解した。
この少女は──
“ふれない”のに、“伝える”ことができる人だと。
*
施術は、すぐに始まった。
ルセナは何も言わず、何も持たず、
ただ流星の前に立ち、そっと目を閉じる。
次の瞬間。
空気が、変わった。
風が鳴っているわけでもない。
葉が擦れるわけでもない。
それなのに、流星の腕に“なにかがふれた”。
(……今……触れられた……?)
ほんのわずかな“空間のゆらぎ”。
それが皮膚をなぞるように通り過ぎていった。
そして今度は、背中。
肩。
首筋。
胸元。
音でもない。
香でもない。
振動……でもない。
それらの“すべてを混ぜた何か”が、流星の身体を包み込みはじめた。
(音が……俺に、触ってる?)
否、違う。
もっと深い。
(心の表面が……“なでられて”いる……)
鼓動が、不思議なほど落ち着いてくる。
“気持ちいい”という言葉を通り越して、
“安心する”という感覚が染み渡っていく。
温泉に浸かったときの、あの一瞬目を閉じたくなるような、
“帰ってきた”と心が思うような、そんな優しさだった。
「……こんなの、はじめてだ……」
流星が思わず漏らすと、
ルセナの音晶が柔らかく揺れた。
──“うれしい”。
たしかに、そう聞こえた。
*
施術が終わった後も、流星はしばらく立てなかった。
ではなく、“立とう”とすら思えなかった。
「ふれられていないのに、
こんなにも体が軽いなんて……」
「言葉がなくても、
こんなに伝わってくるなんて……」
隣で見守っていたリリアがぽつりと漏らす。
「……ねぇ、今の彼女の“癒し”って、
言葉も接触もないのに、どうしてあんなに伝わるんだろう」
アリシアが答える。
「感情そのものが“振動”として伝達されてるのよ。
声帯を通さずに発する“共鳴波”が、
神経信号や心拍のリズムと直接同期してる」
「つまり、言葉よりも、手よりも、
ずっと深いところに直接ふれてくる……“音の心臓マッサージ”みたいなもの」
ミレーユはぽりぽりと頬をかきながらつぶやく。
「……でもよ、逆に言えば──
あの子、誰にも“ふれたこと”がないんじゃねぇの?」
「誰かに触れてほしいって、
本当は願ってるのに……全部、音だけで終わらせてる」
その言葉に、流星が立ち上がった。
「だったら……今度は、俺が“ふれてみたい”な」
「その音じゃなくて──
彼女の、心に」
ルセナの背中がぴくりと震え、
音晶がふわりと揺れた。
音が、流星の胸にふれた。
それは、言葉にはならない。
でも、たしかに届いた“音の感情”。
──“ありがとう”。
ふれずにふれる。
語らずに通じる。
それが、音精ルセナの癒しだった。
それでも彼女は“癒し”を与えてきた。
ふれたわけではない。
でも、たしかに“ふれられた”。
それが、ルセナという少女だった。
*
「《ルセナ》……それが君の名なんだな?」
森の奥、透き通る音の壁の前で。
流星はゆっくりと、少女へ言葉を投げた。
けれど、返事はなかった。
いや、言葉による返事はなかった。
代わりに、足元の音晶がかすかに震え、
胸の奥に“ぴたり”と重なる振動が届いた。
「……ああ、なるほど。
“うん”って、言ってくれてるのか」
流星はすぐに理解した。
この少女は──
“ふれない”のに、“伝える”ことができる人だと。
*
施術は、すぐに始まった。
ルセナは何も言わず、何も持たず、
ただ流星の前に立ち、そっと目を閉じる。
次の瞬間。
空気が、変わった。
風が鳴っているわけでもない。
葉が擦れるわけでもない。
それなのに、流星の腕に“なにかがふれた”。
(……今……触れられた……?)
ほんのわずかな“空間のゆらぎ”。
それが皮膚をなぞるように通り過ぎていった。
そして今度は、背中。
肩。
首筋。
胸元。
音でもない。
香でもない。
振動……でもない。
それらの“すべてを混ぜた何か”が、流星の身体を包み込みはじめた。
(音が……俺に、触ってる?)
否、違う。
もっと深い。
(心の表面が……“なでられて”いる……)
鼓動が、不思議なほど落ち着いてくる。
“気持ちいい”という言葉を通り越して、
“安心する”という感覚が染み渡っていく。
温泉に浸かったときの、あの一瞬目を閉じたくなるような、
“帰ってきた”と心が思うような、そんな優しさだった。
「……こんなの、はじめてだ……」
流星が思わず漏らすと、
ルセナの音晶が柔らかく揺れた。
──“うれしい”。
たしかに、そう聞こえた。
*
施術が終わった後も、流星はしばらく立てなかった。
ではなく、“立とう”とすら思えなかった。
「ふれられていないのに、
こんなにも体が軽いなんて……」
「言葉がなくても、
こんなに伝わってくるなんて……」
隣で見守っていたリリアがぽつりと漏らす。
「……ねぇ、今の彼女の“癒し”って、
言葉も接触もないのに、どうしてあんなに伝わるんだろう」
アリシアが答える。
「感情そのものが“振動”として伝達されてるのよ。
声帯を通さずに発する“共鳴波”が、
神経信号や心拍のリズムと直接同期してる」
「つまり、言葉よりも、手よりも、
ずっと深いところに直接ふれてくる……“音の心臓マッサージ”みたいなもの」
ミレーユはぽりぽりと頬をかきながらつぶやく。
「……でもよ、逆に言えば──
あの子、誰にも“ふれたこと”がないんじゃねぇの?」
「誰かに触れてほしいって、
本当は願ってるのに……全部、音だけで終わらせてる」
その言葉に、流星が立ち上がった。
「だったら……今度は、俺が“ふれてみたい”な」
「その音じゃなくて──
彼女の、心に」
ルセナの背中がぴくりと震え、
音晶がふわりと揺れた。
音が、流星の胸にふれた。
それは、言葉にはならない。
でも、たしかに届いた“音の感情”。
──“ありがとう”。
ふれずにふれる。
語らずに通じる。
それが、音精ルセナの癒しだった。
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