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《言葉のいらない森と、快楽を奏でる音精たち》
第180話『ふれないのに、泣ける』
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──涙は、ふれられたときに流れるものだと思っていた。
温もりを感じたとき、
背中をさすられたとき、
頭を撫でられたとき。
やさしさが肌を越えて、心に届いたとき――
そういうときに、流れるものだと。
だけど今、俺は、ふれられていないのに泣いている。
*
「じゃあ、今日は“施術としての再調律”をお願いします」
そう言って、流星は再び音精の施術空間《セーヌの部屋》に入った。
そこは、音に満ちた透明な半球。
風は吹かない。
香も薄い。
ただ、床も壁も天井も“静かな共鳴”で満たされている空間。
そこに、ルセナはいた。
今日も彼女は、声を出さず、手を伸ばさない。
ただ、目を閉じて、胸の奥で音を立てる。
ふれない。
でも“感じる”。
それが始まりだった。
*
流星の鼓動が、ゆっくりと整う。
音が呼吸に合わせて漂う。
(ああ……また来た……)
身体の表面ではなく、
“内側”が、撫でられている。
耳鳴りに似た高音が、一瞬ふっと消えると、
代わりに“あたたかい静けさ”が流れてくる。
言葉じゃない。
映像でもない。
何かの記憶でもない。
ただ、“あたたかさ”そのものが心にふれてくる。
そして。
──涙が、頬をつたった。
(なんだ、これ……)
(俺、今……泣いてるのか?)
(でも……悲しくない。
つらくも、寂しくも、ないのに)
それは、
“溶けた”感覚に近かった。
固く結ばれていた心が、
音と一緒にゆっくりとほどけて、
なにかになって流れていくような――
涙は、止まらなかった。
「……ふれられてないのに……こんなにあたたかいなんて……」
その一言は、観測室にいる仲間たちにも届いた。
*
「……泣いてる」
リリアが、画面越しに見つめながらつぶやく。
「ふれられてもいないのに……ただ音に包まれてるだけで……」
「でも、あれは“施術”じゃない」
アリシアが言う。
「“解放”よ。
言葉を超えて、皮膚を超えて、
“自分の心そのもの”にふれられてしまったとき、
人は“泣いてしまう”の」
ミレーユは腕を組みながら目を細めた。
「……不覚だな。
こっちも泣きそうだ」
「ふれないのに、
ふれたより深くまで入り込んでんのかよ……音精ってやつは」
*
ルセナは、何も言わなかった。
ただ、静かに流星の前に立ち、
ふれていないのに、
彼の手を包むように“音を寄せた”。
──大丈夫。
──伝わってるよ。
彼女はそう言っていた。
音が、そう言っていた。
流星は涙をぬぐわず、
ただ、深く息を吐いた。
「なぁ、ルセナ。
……“癒し”って、こういうことなのか?」
彼女は何も答えなかった。
けれど、音が、胸の中で返事をした。
──“あなたがそう感じてくれたなら、それでいい”。
流星は、もう一度涙をこぼしながら、
微笑んだ。
温もりを感じたとき、
背中をさすられたとき、
頭を撫でられたとき。
やさしさが肌を越えて、心に届いたとき――
そういうときに、流れるものだと。
だけど今、俺は、ふれられていないのに泣いている。
*
「じゃあ、今日は“施術としての再調律”をお願いします」
そう言って、流星は再び音精の施術空間《セーヌの部屋》に入った。
そこは、音に満ちた透明な半球。
風は吹かない。
香も薄い。
ただ、床も壁も天井も“静かな共鳴”で満たされている空間。
そこに、ルセナはいた。
今日も彼女は、声を出さず、手を伸ばさない。
ただ、目を閉じて、胸の奥で音を立てる。
ふれない。
でも“感じる”。
それが始まりだった。
*
流星の鼓動が、ゆっくりと整う。
音が呼吸に合わせて漂う。
(ああ……また来た……)
身体の表面ではなく、
“内側”が、撫でられている。
耳鳴りに似た高音が、一瞬ふっと消えると、
代わりに“あたたかい静けさ”が流れてくる。
言葉じゃない。
映像でもない。
何かの記憶でもない。
ただ、“あたたかさ”そのものが心にふれてくる。
そして。
──涙が、頬をつたった。
(なんだ、これ……)
(俺、今……泣いてるのか?)
(でも……悲しくない。
つらくも、寂しくも、ないのに)
それは、
“溶けた”感覚に近かった。
固く結ばれていた心が、
音と一緒にゆっくりとほどけて、
なにかになって流れていくような――
涙は、止まらなかった。
「……ふれられてないのに……こんなにあたたかいなんて……」
その一言は、観測室にいる仲間たちにも届いた。
*
「……泣いてる」
リリアが、画面越しに見つめながらつぶやく。
「ふれられてもいないのに……ただ音に包まれてるだけで……」
「でも、あれは“施術”じゃない」
アリシアが言う。
「“解放”よ。
言葉を超えて、皮膚を超えて、
“自分の心そのもの”にふれられてしまったとき、
人は“泣いてしまう”の」
ミレーユは腕を組みながら目を細めた。
「……不覚だな。
こっちも泣きそうだ」
「ふれないのに、
ふれたより深くまで入り込んでんのかよ……音精ってやつは」
*
ルセナは、何も言わなかった。
ただ、静かに流星の前に立ち、
ふれていないのに、
彼の手を包むように“音を寄せた”。
──大丈夫。
──伝わってるよ。
彼女はそう言っていた。
音が、そう言っていた。
流星は涙をぬぐわず、
ただ、深く息を吐いた。
「なぁ、ルセナ。
……“癒し”って、こういうことなのか?」
彼女は何も答えなかった。
けれど、音が、胸の中で返事をした。
──“あなたがそう感じてくれたなら、それでいい”。
流星は、もう一度涙をこぼしながら、
微笑んだ。
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