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《言葉のいらない森と、快楽を奏でる音精たち》
第181話『語られない恋──音精の禁忌』
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──それは、奏でてはならない音だった。
言葉を持たない音精にとって、
“旋律”はすなわち“心の記録”であり、“感情の遺言”であり、
そして“愛そのもの”だった。
だからこそ、それを“外の者”に奏でることは――
禁忌とされていた。
*
「この文献、かなり古いけど……」
リリアが手にしていたのは、音晶を束ねた《禁律譜》。
そこには音精たちが代々受け継いできた“掟”が記録されていた。
『音精の旋律は、響きあう者にのみ捧げるべし』
『異音(=外の者)に対し、“想いの音”を伝えてはならない』
『それは心を譲り渡す行為であり、
ふたたび戻らぬ“共鳴喪失”を招く』
「“共鳴喪失”……?」
アリシアが言葉の意味を解きながら、眉をひそめる。
「簡単に言えば、“自分の音を失うこと”よ。
強い感情を外の者に向け、共鳴の核心を開きすぎた結果、
自身の“響き”を維持できなくなってしまう」
「……つまり、愛したら……“自分”が壊れるかもしれないってことかよ」
ミレーユがつぶやくように言った。
「重てぇな、音精の恋ってやつは」
*
その頃、ルセナは森の静域《カンテラの丘》にいた。
ふだん誰も近づかない、
音すら止まるといわれる静寂の地。
彼女はそこに、
**自分の“想いの旋律”**を刻みはじめていた。
音晶板の上に、指先ではなく“鼓動”を乗せていく。
トクン……トクン……トクン……
そこに、呼吸の波が重なり、
やがて“震え”が共鳴となってひとつの音型を生む。
それは、まだ未完成の旋律。
けれど、たしかにそこに宿っていた。
──“好き”という感情。
(あの人に、わたしの音を届けたい)
(わたしの中にあるこの振動が、
いつか彼の胸で響くなら……)
(それだけで、わたしはもう、充分だから)
ルセナは、声を持たない唇を震わせた。
音はなかった。
でもその沈黙に宿った震えが、
誰よりも深く、
誰よりも切実に、
“恋”を語っていた。
*
「――ルセナ」
その名を呼んだ声に、彼女の肩が跳ねた。
そこにいたのは、流星だった。
「……なにを、作ってる?」
ルセナはすぐには答えなかった。
けれど、彼の前に音晶を差し出した。
何も書かれていない透明の板。
だが、流星が手をかざした瞬間――
ふるえた。
それは、はじめて聴くはずなのに懐かしく、
やさしくて、でも切なくて、
とても言葉では言い表せない感情の旋律だった。
「……これ……」
「お前が、俺に向けて作った音……なのか?」
ルセナは、ただ頷いた。
そして、そっと胸元の音晶を外し、
それを音晶板にそっと押し当てた。
【同調記録開始】
音精にとって、
“自らの音を誰かに刻む”というのは、
“魂の署名”にも等しい行為だった。
掟を、超えた。
それでも。
彼女は、今、誰かを愛する旋律を作っている。
流星のために。
言葉を持たない音精にとって、
“旋律”はすなわち“心の記録”であり、“感情の遺言”であり、
そして“愛そのもの”だった。
だからこそ、それを“外の者”に奏でることは――
禁忌とされていた。
*
「この文献、かなり古いけど……」
リリアが手にしていたのは、音晶を束ねた《禁律譜》。
そこには音精たちが代々受け継いできた“掟”が記録されていた。
『音精の旋律は、響きあう者にのみ捧げるべし』
『異音(=外の者)に対し、“想いの音”を伝えてはならない』
『それは心を譲り渡す行為であり、
ふたたび戻らぬ“共鳴喪失”を招く』
「“共鳴喪失”……?」
アリシアが言葉の意味を解きながら、眉をひそめる。
「簡単に言えば、“自分の音を失うこと”よ。
強い感情を外の者に向け、共鳴の核心を開きすぎた結果、
自身の“響き”を維持できなくなってしまう」
「……つまり、愛したら……“自分”が壊れるかもしれないってことかよ」
ミレーユがつぶやくように言った。
「重てぇな、音精の恋ってやつは」
*
その頃、ルセナは森の静域《カンテラの丘》にいた。
ふだん誰も近づかない、
音すら止まるといわれる静寂の地。
彼女はそこに、
**自分の“想いの旋律”**を刻みはじめていた。
音晶板の上に、指先ではなく“鼓動”を乗せていく。
トクン……トクン……トクン……
そこに、呼吸の波が重なり、
やがて“震え”が共鳴となってひとつの音型を生む。
それは、まだ未完成の旋律。
けれど、たしかにそこに宿っていた。
──“好き”という感情。
(あの人に、わたしの音を届けたい)
(わたしの中にあるこの振動が、
いつか彼の胸で響くなら……)
(それだけで、わたしはもう、充分だから)
ルセナは、声を持たない唇を震わせた。
音はなかった。
でもその沈黙に宿った震えが、
誰よりも深く、
誰よりも切実に、
“恋”を語っていた。
*
「――ルセナ」
その名を呼んだ声に、彼女の肩が跳ねた。
そこにいたのは、流星だった。
「……なにを、作ってる?」
ルセナはすぐには答えなかった。
けれど、彼の前に音晶を差し出した。
何も書かれていない透明の板。
だが、流星が手をかざした瞬間――
ふるえた。
それは、はじめて聴くはずなのに懐かしく、
やさしくて、でも切なくて、
とても言葉では言い表せない感情の旋律だった。
「……これ……」
「お前が、俺に向けて作った音……なのか?」
ルセナは、ただ頷いた。
そして、そっと胸元の音晶を外し、
それを音晶板にそっと押し当てた。
【同調記録開始】
音精にとって、
“自らの音を誰かに刻む”というのは、
“魂の署名”にも等しい行為だった。
掟を、超えた。
それでも。
彼女は、今、誰かを愛する旋律を作っている。
流星のために。
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