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《言葉のいらない森と、快楽を奏でる音精たち》
第182話『奏でるだけで、抱きしめたくなる』
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──ふれていないのに、泣いてしまう。
そんな体験が、“癒し”の森《フィル=アウル》では日常だった。
だが、泣きたいのに泣けない者もいる。
“ふれられなかった”ことに、心を閉ざす者もまた、確かに存在していた。
それは――言葉のない癒しが孕む、光と影だった。
*
「はじめてでした……」
「手を握られたわけじゃないのに、
“あなたはひとりじゃない”って、全身で言われた気がしました……」
「何も言われてないのに、こんなにあたたかいなんて……」
森に訪れた癒し希望者たちの証言は、どれも似ていた。
共鳴施術を受けた者は、
“ふれずに心に届いた”という幸福感を語る。
そして、涙を流す者が、ほとんどだった。
「……まるで、母に胸をなでられたときのことを思い出した」
「遠い昔の記憶が、音の中で揺れていた気がします……」
快楽ではなく、慰め。
官能ではなく、ぬくもり。
それは、“触覚に頼らない癒し”という世界の真骨頂だった。
「ふれずに、ここまでできるなんて……」
流星自身も改めて圧倒されていた。
「それに……なんていうか、“ふれたい”って思わせてくる」
「ふれない施術なのに、
その優しさが逆に“もっと近づきたくなる”欲求を生むんだ……」
ミレーユがぼそりとつぶやく。
「……わかる。
“抱きしめたくなる施術”って、ヤバいわよね」
リリアも、うっすら目を潤ませて頷いた。
*
だが、その一方で――
「……私は、ちっとも癒された気がしませんでした」
その言葉を発したのは、別の客だった。
「何かがふれてる感じはありました。
でも、実体がない。
ふれられているのに、“誰もいない”みたいで怖かったんです」
「私、触ってほしかったんです。
声がほしかった。
言葉がほしかった。
なにもかもが、届きそうで届かない感じが、
余計に孤独でした」
その声に、場の空気が静かに揺れた。
「……それも、真実よね」
アリシアが、隣でそっと口を開いた。
「癒しって、“受け取る側”にとって初めて完成するものだから。
与える側がどれだけ心を尽くしても、
それを“必要な形”で感じられない人には届かないことがある」
「ふれない癒しは、とてもやさしくて、
でも……ときに“距離”を突きつけてしまうの」
流星は小さく頷いた。
「……つまり、“ふれたくなる施術”であっても、
ふれられないまま終わったら……
逆に、“ふれられなかったこと”だけが残る」
「それが、“孤独”に変わることもあるんだ」
*
その夜、音精たちの会合が開かれた。
流星の報告を受けて、森の長老《ファオル》が音晶を震わせる。
その内容は――
「外の者に対する施術方針の見直し」。
『触れる癒しと、触れない癒し』
『その“選択”を外の者にも与えるべきか否か』
「……あの、私に提案があります」
静かに、ルセナが音の場に立った。
『共鳴の前に、“意思の交換”を』
『どんな癒しを望むか。何を受け取る準備があるか』
『それを伝え合う“準調律の儀”を、施術前に加えることを提案します』
静寂。
しかし、数秒後、
幾人かの音精の音晶が“共鳴承認”の振動を発した。
音で、彼女の提案は受け入れられた。
流星は、そっと心の中で呟いた。
(ふれずに泣けるのも、
ふれられなくて泣くのも、
どちらも“本物の心”なんだ)
(だからこそ──選べる癒しに、価値がある)
そんな体験が、“癒し”の森《フィル=アウル》では日常だった。
だが、泣きたいのに泣けない者もいる。
“ふれられなかった”ことに、心を閉ざす者もまた、確かに存在していた。
それは――言葉のない癒しが孕む、光と影だった。
*
「はじめてでした……」
「手を握られたわけじゃないのに、
“あなたはひとりじゃない”って、全身で言われた気がしました……」
「何も言われてないのに、こんなにあたたかいなんて……」
森に訪れた癒し希望者たちの証言は、どれも似ていた。
共鳴施術を受けた者は、
“ふれずに心に届いた”という幸福感を語る。
そして、涙を流す者が、ほとんどだった。
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「遠い昔の記憶が、音の中で揺れていた気がします……」
快楽ではなく、慰め。
官能ではなく、ぬくもり。
それは、“触覚に頼らない癒し”という世界の真骨頂だった。
「ふれずに、ここまでできるなんて……」
流星自身も改めて圧倒されていた。
「それに……なんていうか、“ふれたい”って思わせてくる」
「ふれない施術なのに、
その優しさが逆に“もっと近づきたくなる”欲求を生むんだ……」
ミレーユがぼそりとつぶやく。
「……わかる。
“抱きしめたくなる施術”って、ヤバいわよね」
リリアも、うっすら目を潤ませて頷いた。
*
だが、その一方で――
「……私は、ちっとも癒された気がしませんでした」
その言葉を発したのは、別の客だった。
「何かがふれてる感じはありました。
でも、実体がない。
ふれられているのに、“誰もいない”みたいで怖かったんです」
「私、触ってほしかったんです。
声がほしかった。
言葉がほしかった。
なにもかもが、届きそうで届かない感じが、
余計に孤独でした」
その声に、場の空気が静かに揺れた。
「……それも、真実よね」
アリシアが、隣でそっと口を開いた。
「癒しって、“受け取る側”にとって初めて完成するものだから。
与える側がどれだけ心を尽くしても、
それを“必要な形”で感じられない人には届かないことがある」
「ふれない癒しは、とてもやさしくて、
でも……ときに“距離”を突きつけてしまうの」
流星は小さく頷いた。
「……つまり、“ふれたくなる施術”であっても、
ふれられないまま終わったら……
逆に、“ふれられなかったこと”だけが残る」
「それが、“孤独”に変わることもあるんだ」
*
その夜、音精たちの会合が開かれた。
流星の報告を受けて、森の長老《ファオル》が音晶を震わせる。
その内容は――
「外の者に対する施術方針の見直し」。
『触れる癒しと、触れない癒し』
『その“選択”を外の者にも与えるべきか否か』
「……あの、私に提案があります」
静かに、ルセナが音の場に立った。
『共鳴の前に、“意思の交換”を』
『どんな癒しを望むか。何を受け取る準備があるか』
『それを伝え合う“準調律の儀”を、施術前に加えることを提案します』
静寂。
しかし、数秒後、
幾人かの音精の音晶が“共鳴承認”の振動を発した。
音で、彼女の提案は受け入れられた。
流星は、そっと心の中で呟いた。
(ふれずに泣けるのも、
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(だからこそ──選べる癒しに、価値がある)
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