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《「ふれない快楽」から「ふれ合う覚悟」へ》
第196話『ティフェリア、初めての共鳴──触れぬ愛に、涙こぼれて』
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「わたし……やっぱり、無理かもしれません」
ティフェリアは仮面をつけたまま、薄闇の共鳴室の前で立ちすくんでいた。
無名国の規律──それは、**「名を語らず、肌を晒さず、声を漏らさず」**という掟の下、愛さえ匿名であるべきという思想だった。
だが今、彼女の前にはそのすべてを揺るがす存在がいた。
名を持つ異国の巫女、ルセナ・フローラ。
「怖いの? それとも、誰かに“ふれられたい”って思ってるの?」
ルセナの声は優しかった。けれど、どこか鋭い問いかけでもあった。
ティフェリアは頷けなかった。
ふれられることに慣れていない。
誰かの目を見るのも怖い。
なのに、流星とルセナが奏でた“ふれない快楽”の儀式に、自分の身体は勝手に震えてしまっていた。
「ふれないまま、共鳴して……心の奥に入ってこられるのって、もっと怖いんです……!」
思わず口を滑らせてしまった瞬間、彼女は両手で仮面を押さえた。
感情を声にすること自体、タブーに近い行為。
だがルセナは、静かに手を差し伸べる──決して、触れぬままで。
「じゃあ、わたしの音に……耳だけ、貸して」
共鳴室の中、空間は澄んでいた。香も風も、音すらない静寂。
ただ、ルセナの奏でる“ふれない音叉”が空気を揺らし、ゆるやかな波となってティフェリアを包んでいく。
最初の一音で、彼女の心が跳ねた。
耳の奥ではなく、胸の裏側。
鼓動と呼吸が少しずつ、ルセナの発する音と重なっていく。
「……あ」
ティフェリアの仮面の下から、小さく息が漏れた。
ルセナは応えない。ただひたすらに、波動を重ねていく。
ふれない、ふれない。だが、心の輪郭にぴたりと寄り添ってくる“あたたかい何か”。
──それは、誰かと繋がるという実感。
やがて、ティフェリアの膝がわずかに震えた。
腰が抜けそうになるのを、彼女は壁にすがるように耐える。
「なんで……触ってないのに、こんな、恥ずかしいの……っ」
鼓動が、暴れていた。
それは快楽というより、涙腺の奥に火をつけられるような“癒され感”。
そして──
「ぅ……んっ……あ……」
ついに、声にならない声が漏れた。
共鳴室の空気が、彼女の恥じらいと快感の振動で揺らぎ出す。
頬が赤い。耳まで染まる。
仮面を透けるその熱に、ルセナは静かに微笑んだ。
「ふれられなくても、触れられることって、あるんだよ」
ティフェリアは涙を零した。
音だけで満たされた身体は、まるで“抱きしめられた”あとのようにゆるゆると弛緩していた。
「……こんな、やさしいの、初めてでした」
ティフェリアが震える指で、自らの仮面の縁をそっと撫でた。
「誰かに名を呼ばれるなんて、思ってなかった。ふれないまま、好きになっちゃいそう……」
ルセナの耳も、かすかに赤く染まっていた。
「じゃあ、今度はわたしが……あなたの音に、ふれてみたい」
その言葉は、無名の国に初めて芽生えた“指名”の感情だった。
──ふれない愛は、まだ続いていく。
ティフェリアは仮面をつけたまま、薄闇の共鳴室の前で立ちすくんでいた。
無名国の規律──それは、**「名を語らず、肌を晒さず、声を漏らさず」**という掟の下、愛さえ匿名であるべきという思想だった。
だが今、彼女の前にはそのすべてを揺るがす存在がいた。
名を持つ異国の巫女、ルセナ・フローラ。
「怖いの? それとも、誰かに“ふれられたい”って思ってるの?」
ルセナの声は優しかった。けれど、どこか鋭い問いかけでもあった。
ティフェリアは頷けなかった。
ふれられることに慣れていない。
誰かの目を見るのも怖い。
なのに、流星とルセナが奏でた“ふれない快楽”の儀式に、自分の身体は勝手に震えてしまっていた。
「ふれないまま、共鳴して……心の奥に入ってこられるのって、もっと怖いんです……!」
思わず口を滑らせてしまった瞬間、彼女は両手で仮面を押さえた。
感情を声にすること自体、タブーに近い行為。
だがルセナは、静かに手を差し伸べる──決して、触れぬままで。
「じゃあ、わたしの音に……耳だけ、貸して」
共鳴室の中、空間は澄んでいた。香も風も、音すらない静寂。
ただ、ルセナの奏でる“ふれない音叉”が空気を揺らし、ゆるやかな波となってティフェリアを包んでいく。
最初の一音で、彼女の心が跳ねた。
耳の奥ではなく、胸の裏側。
鼓動と呼吸が少しずつ、ルセナの発する音と重なっていく。
「……あ」
ティフェリアの仮面の下から、小さく息が漏れた。
ルセナは応えない。ただひたすらに、波動を重ねていく。
ふれない、ふれない。だが、心の輪郭にぴたりと寄り添ってくる“あたたかい何か”。
──それは、誰かと繋がるという実感。
やがて、ティフェリアの膝がわずかに震えた。
腰が抜けそうになるのを、彼女は壁にすがるように耐える。
「なんで……触ってないのに、こんな、恥ずかしいの……っ」
鼓動が、暴れていた。
それは快楽というより、涙腺の奥に火をつけられるような“癒され感”。
そして──
「ぅ……んっ……あ……」
ついに、声にならない声が漏れた。
共鳴室の空気が、彼女の恥じらいと快感の振動で揺らぎ出す。
頬が赤い。耳まで染まる。
仮面を透けるその熱に、ルセナは静かに微笑んだ。
「ふれられなくても、触れられることって、あるんだよ」
ティフェリアは涙を零した。
音だけで満たされた身体は、まるで“抱きしめられた”あとのようにゆるゆると弛緩していた。
「……こんな、やさしいの、初めてでした」
ティフェリアが震える指で、自らの仮面の縁をそっと撫でた。
「誰かに名を呼ばれるなんて、思ってなかった。ふれないまま、好きになっちゃいそう……」
ルセナの耳も、かすかに赤く染まっていた。
「じゃあ、今度はわたしが……あなたの音に、ふれてみたい」
その言葉は、無名の国に初めて芽生えた“指名”の感情だった。
──ふれない愛は、まだ続いていく。
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