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《「ふれない快楽」から「ふれ合う覚悟」へ》
第199話『風俗禁止令、発令──“名なき自由”は淫れている?』
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その日、無名国《シィアス・ナーム》の空は、まるで何かを拒むように重く曇っていた。
「音精ルセナによる施術は、快楽中毒を助長し、
国家秩序と“無名の精神的平穏”を根底から揺るがしている」
そう読み上げたのは、評議会第八席の老官・ゼンハル。
場内に広がるのは静寂──いや、沈黙の圧力。
「よって本日より、すべての“共鳴施術”施設は一時閉鎖とし、
対象者ルセナは国外追放の審査対象とする」
その言葉に、ティフェリアは小さく呻いた。
「……追放……? そんな……彼は、ただ“ふれたい”って願っただけなのに」
彼女の声は誰にも届かなかった。
この国では“叫ぶこと”も、“名指すこと”もまた罪だったから。
一方その頃──
ルセナは施術拠点である《ユム・ティーア》の一室で、
“風俗禁止令”の知らせを受けていた。
「……僕が、快楽を広めたから?」
違う──そう、思いたかった。
彼が届けたのは“ふれられないのに愛される”幸福。
だが、官僚たちにとってそれは、恐るべき“秩序の崩壊”だった。
なぜなら──この国は、愛されることを捨てることで平和を保ってきたからだ。
「名がないから争わない。
ふれないから奪い合わない。
声を出さないから、誤解もしない」
そんな《静寂の倫理》の上に築かれた国家。
だが、今──その基盤が、ルセナ一人の“音”で揺らいでいる。
午後、施術室の前には異様な光景が広がっていた。
数十名、いや──数百名に及ぶ市民たちが集まっていた。
誰も声を出さない。
誰も叫ばない。
だが、その手には……署名用紙。
「ふれられない施術に、心を抱かれた」
「名も知らないあの人に、恋をしてしまった」
「もう、元の“名なき日常”には戻れない」
書かれていたのは、誰かの本音。
名を持たぬ人々が、名もなきまま、それでも“恋をした”証だった。
評議会──
「異常です! 市民の約三割が“共鳴施術の再開”に署名しています!」
「それも“匿名”で、です!」
執務官たちは混乱していた。
“名なき者たちの革命”が、沈黙の中で進行している。
その中で、ゼンハル老官は低くつぶやいた。
「……だからこそ危険なのだ。
この国に“名前”が戻れば、かつての戦乱が再来する……」
彼の記憶には、まだ焼きついていた。
過去に起こった“名指しによる戦争”──
好きだと叫び、振られた名。
裏切った名、奪われた名、呪われた名。
この国は、それらすべてを封じるために“無名”を選んだのだ。
それが今、再び音と名によって“開かれそう”になっている。
「ティフェリア……」
「ルセナ……っ」
夕暮れ、ふたりは逃げるように、都市の端にある“香の丘”にいた。
「……私、もう隠せない」
ティフェリアは、かすれた声で言った。
「あなたにふれられて、
あなたに“ティフェリア”って呼ばれて……」
「私、誰かに抱かれることより、
“自分として見てほしい”って、
こんなに思ったのは……初めてだった……っ」
ルセナは彼女を抱きしめた。
今度は、迷いもためらいもなく。
「……じゃあ、次は僕が名を呼ぶ番だね」
耳元で、囁く。
「ティフェリア。僕は君を、愛してる」
涙が流れる音が、ルセナの鼓膜に響いた。
そして──
ルセナがゆっくりと唇を重ねようとした、まさにその時。
「──音精ルセナ、即時拘束命令が発令されました!」
轟く官兵たちの声。
白の仮面をつけた警備兵が十数名、二人を囲んでいた。
ティフェリアが叫んだ。
「待って! この人は……ただ、愛を──!」
「“愛”こそ、もっとも恐れるべき感染源だ!」
官兵の声が響いたその瞬間──
ルセナの背後から飛び込んできた影があった。
「触れんなァァァアアアアアア!!!!」
まさかの登場──流星だった。
「風俗がッ……!! ふれあいがッ……!!
名を呼ぶことがッ……!!!
なにより、恋が悪だって言うのかァァァ!!」
拳が光を纏い、空気を震わせ、
官兵の盾をぶち破った。
ティフェリアが呟く。
「……この人、本当に、風俗勇者なのね……」
騒乱の夜。
《シィアス・ナーム》で、
名を呼ぶ革命が──静かに、しかし確かに始まった。
「音精ルセナによる施術は、快楽中毒を助長し、
国家秩序と“無名の精神的平穏”を根底から揺るがしている」
そう読み上げたのは、評議会第八席の老官・ゼンハル。
場内に広がるのは静寂──いや、沈黙の圧力。
「よって本日より、すべての“共鳴施術”施設は一時閉鎖とし、
対象者ルセナは国外追放の審査対象とする」
その言葉に、ティフェリアは小さく呻いた。
「……追放……? そんな……彼は、ただ“ふれたい”って願っただけなのに」
彼女の声は誰にも届かなかった。
この国では“叫ぶこと”も、“名指すこと”もまた罪だったから。
一方その頃──
ルセナは施術拠点である《ユム・ティーア》の一室で、
“風俗禁止令”の知らせを受けていた。
「……僕が、快楽を広めたから?」
違う──そう、思いたかった。
彼が届けたのは“ふれられないのに愛される”幸福。
だが、官僚たちにとってそれは、恐るべき“秩序の崩壊”だった。
なぜなら──この国は、愛されることを捨てることで平和を保ってきたからだ。
「名がないから争わない。
ふれないから奪い合わない。
声を出さないから、誤解もしない」
そんな《静寂の倫理》の上に築かれた国家。
だが、今──その基盤が、ルセナ一人の“音”で揺らいでいる。
午後、施術室の前には異様な光景が広がっていた。
数十名、いや──数百名に及ぶ市民たちが集まっていた。
誰も声を出さない。
誰も叫ばない。
だが、その手には……署名用紙。
「ふれられない施術に、心を抱かれた」
「名も知らないあの人に、恋をしてしまった」
「もう、元の“名なき日常”には戻れない」
書かれていたのは、誰かの本音。
名を持たぬ人々が、名もなきまま、それでも“恋をした”証だった。
評議会──
「異常です! 市民の約三割が“共鳴施術の再開”に署名しています!」
「それも“匿名”で、です!」
執務官たちは混乱していた。
“名なき者たちの革命”が、沈黙の中で進行している。
その中で、ゼンハル老官は低くつぶやいた。
「……だからこそ危険なのだ。
この国に“名前”が戻れば、かつての戦乱が再来する……」
彼の記憶には、まだ焼きついていた。
過去に起こった“名指しによる戦争”──
好きだと叫び、振られた名。
裏切った名、奪われた名、呪われた名。
この国は、それらすべてを封じるために“無名”を選んだのだ。
それが今、再び音と名によって“開かれそう”になっている。
「ティフェリア……」
「ルセナ……っ」
夕暮れ、ふたりは逃げるように、都市の端にある“香の丘”にいた。
「……私、もう隠せない」
ティフェリアは、かすれた声で言った。
「あなたにふれられて、
あなたに“ティフェリア”って呼ばれて……」
「私、誰かに抱かれることより、
“自分として見てほしい”って、
こんなに思ったのは……初めてだった……っ」
ルセナは彼女を抱きしめた。
今度は、迷いもためらいもなく。
「……じゃあ、次は僕が名を呼ぶ番だね」
耳元で、囁く。
「ティフェリア。僕は君を、愛してる」
涙が流れる音が、ルセナの鼓膜に響いた。
そして──
ルセナがゆっくりと唇を重ねようとした、まさにその時。
「──音精ルセナ、即時拘束命令が発令されました!」
轟く官兵たちの声。
白の仮面をつけた警備兵が十数名、二人を囲んでいた。
ティフェリアが叫んだ。
「待って! この人は……ただ、愛を──!」
「“愛”こそ、もっとも恐れるべき感染源だ!」
官兵の声が響いたその瞬間──
ルセナの背後から飛び込んできた影があった。
「触れんなァァァアアアアアア!!!!」
まさかの登場──流星だった。
「風俗がッ……!! ふれあいがッ……!!
名を呼ぶことがッ……!!!
なにより、恋が悪だって言うのかァァァ!!」
拳が光を纏い、空気を震わせ、
官兵の盾をぶち破った。
ティフェリアが呟く。
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