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《ふれあい風俗解禁──恋と肌と音のエレジー》
第210話『ティフェリア、恋人と名乗るには──“娼婦”から“名前の恋人”へ』
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その日、ティフェリアの施術室に入ってきたのは、何度も通ってくれている常連の青年──レインだった。
「今日は……お願いがあります」
彼の声は、どこか決意を含んでいた。柔らかく、でも揺るがぬ熱がある。
ティフェリアは、指先を浄化布で整える動作を止めた。
「……施術の内容、変更ですか?」
「いや、施術は、いつも通りでいい。でも──」
青年は懐から、小さな札を取り出す。それは、ふれあい施術が合法化されてから、ごく一部の施術士と顧客の間で流通しはじめた“名札”。
そこには、こう記されていた。
**《この名を、君に託します。恋人として──レイン》**
ティフェリアの瞳が揺れた。
「……なに、これ」
「君に、名を贈りたい。もう、施術を受けるだけの関係じゃ、足りないと思ってる。ティフェリア、俺は君の恋人になりたい」
その言葉に、心の奥が波打った。
名を贈られること。それはこの国で、“心を預ける”行為だった。だが、それを施術士として受け取るということは、仕事と感情の境を越えるということ。
「……わたしは、“娼婦”です」
彼女は、静かに言った。
「触れて、名前をなぞって、快楽と心を結ぶことが“仕事”なの。でも、だからこそ……名前をもらうのが怖い」
「怖い?」
「だって、恋人って……売り物じゃ、いけないよね?」
言葉のあと、沈黙が落ちる。
外の風鈴が、音もなく揺れた。
ふいに、レインが一歩近づく。
「だったら、売らないでくれ」
「え……?」
「君の“名前を呼ぶ時間”を、俺だけに売らないでくれ。欲しいのは、サービスじゃない。……君の心が、俺を選んでくれる時間なんだ」
その言葉に、ティフェリアの視界がにじんだ。
これまで施術の中で、どれだけ多くの“ふれあい”を演じてきただろう。どれだけ多くの名前を、背に刻んできただろう。
けれど──それらはすべて、“愛されたふり”だった。
はじめて、「愛したい」と思ったかもしれない。
「……少しだけ、待ってくれますか?」
ティフェリアは、施術台の脇にそっと座る。
指を、青年の手の甲へと伸ばす。
そして、ゆっくりと文字をなぞった。
**れ い ん**
手の甲の温度が、ほんのりと上がる。
「ねえ、レイン……」
「うん?」
「あなたの名前を、誰よりも綺麗に、誰よりも優しく、呼んでみたいって……いま、思ったの」
彼は、目を見開いたまま微笑んだ。
「それは、恋人の資格、あるかな?」
「……たぶん、あるかも」
その日、ティフェリアは札を受け取った。
施術士としてではなく、一人の女として。
そして夜。彼女は新たな“名前の札”を、自室の鏡台の上に並べた。
**ティフェリア──名前を呼ばれた女**
明日からも彼女は、施術士として名前をなぞり続けるだろう。
だが、今日だけは──呼ぶ声の中に、恋が混じっていた。
「今日は……お願いがあります」
彼の声は、どこか決意を含んでいた。柔らかく、でも揺るがぬ熱がある。
ティフェリアは、指先を浄化布で整える動作を止めた。
「……施術の内容、変更ですか?」
「いや、施術は、いつも通りでいい。でも──」
青年は懐から、小さな札を取り出す。それは、ふれあい施術が合法化されてから、ごく一部の施術士と顧客の間で流通しはじめた“名札”。
そこには、こう記されていた。
**《この名を、君に託します。恋人として──レイン》**
ティフェリアの瞳が揺れた。
「……なに、これ」
「君に、名を贈りたい。もう、施術を受けるだけの関係じゃ、足りないと思ってる。ティフェリア、俺は君の恋人になりたい」
その言葉に、心の奥が波打った。
名を贈られること。それはこの国で、“心を預ける”行為だった。だが、それを施術士として受け取るということは、仕事と感情の境を越えるということ。
「……わたしは、“娼婦”です」
彼女は、静かに言った。
「触れて、名前をなぞって、快楽と心を結ぶことが“仕事”なの。でも、だからこそ……名前をもらうのが怖い」
「怖い?」
「だって、恋人って……売り物じゃ、いけないよね?」
言葉のあと、沈黙が落ちる。
外の風鈴が、音もなく揺れた。
ふいに、レインが一歩近づく。
「だったら、売らないでくれ」
「え……?」
「君の“名前を呼ぶ時間”を、俺だけに売らないでくれ。欲しいのは、サービスじゃない。……君の心が、俺を選んでくれる時間なんだ」
その言葉に、ティフェリアの視界がにじんだ。
これまで施術の中で、どれだけ多くの“ふれあい”を演じてきただろう。どれだけ多くの名前を、背に刻んできただろう。
けれど──それらはすべて、“愛されたふり”だった。
はじめて、「愛したい」と思ったかもしれない。
「……少しだけ、待ってくれますか?」
ティフェリアは、施術台の脇にそっと座る。
指を、青年の手の甲へと伸ばす。
そして、ゆっくりと文字をなぞった。
**れ い ん**
手の甲の温度が、ほんのりと上がる。
「ねえ、レイン……」
「うん?」
「あなたの名前を、誰よりも綺麗に、誰よりも優しく、呼んでみたいって……いま、思ったの」
彼は、目を見開いたまま微笑んだ。
「それは、恋人の資格、あるかな?」
「……たぶん、あるかも」
その日、ティフェリアは札を受け取った。
施術士としてではなく、一人の女として。
そして夜。彼女は新たな“名前の札”を、自室の鏡台の上に並べた。
**ティフェリア──名前を呼ばれた女**
明日からも彼女は、施術士として名前をなぞり続けるだろう。
だが、今日だけは──呼ぶ声の中に、恋が混じっていた。
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