『おしっこパニックで恋が始まる!?』

本能寺から始める常陸之介寛浩

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第84話『止まらない鼓動と、また一歩の距離』

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 秋晴れの放課後。
 文化祭も終わり、学校はどこかのんびりとした空気に包まれていた。

 だが──佐藤ハルカだけは、違った。

「や、やばい……! ま、また……!」

 校舎裏のベンチに座り込むハルカ。
 お祭りの後に食べたタピオカミルクティーと、抹茶ラテのダブルパンチが、猛烈に襲ってきていた。

 ──膀胱、限界。

「なんで、私ってこう……イベント後に必ず……」

 膝を抱え、プルプルと震えるハルカ。
 顔は真っ赤で、汗がにじみ、もはや青春どころではない。

 そこへ、
 姿を現したのは──藤原ケントだった。

「……佐藤、またかよ」

 呆れたように言いながらも、ケントの手にはペットボトルの水とタオル。
 心配して探してきたのだろう。

「ケントぉぉ……! た、助けて……!」

「……はいはい。ほら、水飲め。落ち着け」

「水飲んだら、逆にヤバいってば!?」

「知らん。精神安定用だ」

 無理やり水を渡され、ハルカは半泣きでペットボトルを抱え込む。
 ケントはそんなハルカを見て、わずかに口角を上げた。

「ったく。……走れるか?」

「……え?」

「トイレ、間に合わないだろ。俺が道案内する。着いてこい」

 サラリと告げて、ケントは手を差し出した。

 その手は──どこか、優しかった。

(ケント……なんか、前よりも……)

 ハルカは顔を真っ赤にしながら、
 おそるおそる、その手を取った。

 ぎゅっ。

 手のひらに伝わる体温。
 どきどきと鼓動が跳ね上がる。

「こ、こんな……青春みたいなシチュエーション、ある……!?」

 膀胱の限界と、心臓の爆発寸前──
 ダブルで追い詰められるハルカ。

 そんなハルカを引っ張りながら、ケントは真顔で言った。

「……次こそ自分で間に合わせろ。
 毎回、俺を巻き込むな。……心臓に悪い」

(え、心臓に、悪いって……!?)

 思わず顔を上げると、
 ケントの耳が、うっすら赤く染まっていた。

 ハルカの脳内に、花火がドカンと打ち上がる。

 ──もしかして、ケントも……ドキドキしてる!?

「ケ、ケント……!」

「なにジロジロ見てんだ。走るぞ」

「あっ、うんっ!」

 二人は手を繋いだまま、夕焼けに染まる校舎を駆け抜けた。

 ──目的地は、もちろんトイレ。

 だけど。
 きっと、それだけじゃなかった。

 二人の距離は、また少し──近づいていた。
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